「できることを精一杯まじめに、おいしいを追求する」

ひとびとの声でにぎわう、マルシェの一角。

2日前の大雨が嘘のような清々しい青空のもと、西駒とうふ店の西田さんにお話しをうかがいました。

西駒とうふ店はJR和邇駅から徒歩10分ほど、和邇小学校の向かいにあります。

今日は毎月第1日曜日に蓬莱の家で開催される、蓬莱マルシェに出店されていました。

「手でコツコツとなにかものを作るのが好きやったんです。それで大学のときに民俗学や考古学を学んでいて、仏壇の職人さんを取材したことがあるんですよ」

滋賀県立大学の人間文化部で学んでいたという西田さんは、自分のルーツを説明してくれました。

「職人さんの工房に行くと、家族と職住が一緒なんで、子どもがそのへんをちょろちょろしてるんです。あとは奥さんがお茶を出してくれはったり、仕事と生きかたの境があんまりない。よくもあって悪くもあって、自分でも職住を分けない生きかたをやってみて思うんですけど。そのときは、そういう分けへだてがないことに魅力を感じました」

転勤族の家庭で生まれ育った経験から、ひとつところに腰を据えて働きたかったそう。

もうひとつ、こんな興味深いお話しも。

「ゼミはモンゴルの研究をしている先生のゼミでした。研究調査について1ヶ月弱モンゴルに滞在したことがあるんです。遊牧民たちは乳製品が主な食べもので、飼っている羊のミルクなどで生活しています。だから彼らはね、仕事が生きることそのものなんですよ」

家畜の肉やミルクなどはときに自分たちの食糧として、あるいは交易活動のひとつの商品として重宝されていました。

そんな彼ら遊牧民の生活を目の当たりにして、かつて取材した仏壇職人と同じく、仕事と生活が分けへだてられていないと感じたようです。

「その研究調査から帰国し自分の進路を考えるときに、湖東町(現東近江市)のお豆腐屋さんから、人づてに紹介があったんです」

紹介された豆腐屋で3年間アルバイトをし、師匠からも太鼓判をおされ、豆腐屋をはじめました。

滋賀県の農家さんを応援したいというおもいから、輸入品や他県の大豆ではなく滋賀県産のものをつかって豆腐を作っているとのこと。

手前:ざる豆腐(大)350円 左:生ゆば 400円 中央:おぼろ豆腐 230円 右:厚揚げ 1枚80円

「今はどの豆腐屋でも味が濃いものを推していて、パッケージに糖度が書いてあったりするんですよ。でも濃厚なものが正解ではない。毎日食べるからこそ、あっさりして飽きがこない。でもなんか食べたくなるなって思う豆腐が、僕は一番いい豆腐やと思っているんです」

そんな西田さんがよいと思う味が、自身の好みの味でもあったそう。

食べてしまえば、あとには残らない。だから全く同じ味を再現するのがとてもむずかしい。

あくまで自分の経験と勘を頼るのみ。そして購入したお客さんの反応で変えていく。

「もしかしたら、昔のほうが美味しい豆腐が作れたのではないか。という不安はあります」

これが今回の取材で特に印象に残っている言葉です。

ぼくは以前、自転車や皮革製品を販売する仕事に就いていました。

どちらも作るのも直すのも、手本があるものばかり。

目指すべき明確な答えがあり、作業をするのに必要な実物の資料なども充分にあります。

しかし豆腐はレシピ(資料)自体があっても、その通りにやって常に同じ味のものができるわけではない。

その日の気温や湿度、材料の状態でいくらでも変化していく。

そんななか以前の美味しかった味を再現しようにも、困難であることは想像にかたくない。

ものづくりに関わったことがある身として、作ったものが残るものとそうでないものとで、こんなにも違うのかと思い知らされました。

それでも続けていられるのは、「豆腐作りは料理みたいで楽しい」から。

なんでもかんでも機械に頼りすぎず、自分でできることは自分の手足を動かしてやっていく。

続けていくうちに、どんどん楽しさを見つけていったそう。

「全国でいかにシェアをとるかより、西駒とうふのある地域で100%のシェアをとる」

全国という広い世界よりも、自分のお店の周りの食卓に美味しい豆腐を届ける。

そう語る西田さんの味の追求は終わりがない。


西田さんお気に入りのぶどうの木が入り口でお出迎え。一見すると普通の家にもみえ、そんなところからも職住を分けない暮らしが垣間見える。

西駒とうふ店

住所:大津市和邇今宿880-3 
電話番号:077-594-2292 
営業時間:10時~18時半
定休日:日曜日、第3月曜日 駐車場:3台

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  • 文 :
  • 八尾野 穂高
  • 写真:山崎 純敬