お寺の境内や本堂が駄菓子屋に変身!

  • 徳浄寺
  • 三上昭さん

JR湖西線「近江舞子」駅から0.8km、比良山の麓にたたずむ浄土真宗本願寺派・徳浄寺。普段は静かなお寺が、週に1回だけ、大勢の小学生でワイワイ賑わいます。子どもたちのお目当ては、ここで開かれる駄菓子屋さん。

本堂に並ぶ色とりどりの駄菓子を前に、目をキラキラさせて並ぶ子どもたち。畳の上でボードゲームやおはじきをして遊んでいる子、机で宿題をしている子もいます。そんな子どもたちと気さくに話すご住職はまるで親戚のおじちゃんのよう。

駄菓子屋さんを運営しているのは地域のお母さんたちですが、今回はお寺を開放しているご住職にどんな想いで協力されているのか聞いてきました。

お寺を開放し、地域交流の活性化に役立てたい

—— 「小松プレーパークをつくる会」の塩見さんや安藤さんから、「子どもの居場所づくりとして駄菓子屋を開きたい」という話を聞かれた時の最初の印象はどうでしたか?

前向きな活動でしたので、率直に「応援したい」という気持ちでしたね。お寺は昔から子どもの遊び場であり、江戸時代には行政の役割も果たしていたため、多くの人が集いました。徳浄寺では毎年、「お寺落語」と題して寄席を開催するなど、現代でも地域交流の活性化に役立ててもらえればうれしいと思っています。

しかし、お寺というのは基本的に門徒さんの持ち物ですので、私が独断で決めることはできません。そこで門徒さんがお参りに集まる際、「こんな話があって私は賛成ですが、皆さんどうでしょうか?」と聞いたのです。なかには「子どもが本堂を走り回って大切なものを壊すのではないか」と心配される方もおられましたが、最終的に大きな反対はなかったので開放することに決めました。今では皆さんからあたたかく見守っていただいています。

—— 子どもたちを見ていると、本堂の大切なものには触れていませんよね。

そうなんですよ。これは私のほうから注意したわけではないんです。何も言わなくても、子どもたちはちゃんと大切なものを理解しています。「触るとバチが当たる」なんて言う子もいますよ。
実は第1回を開催する際、お堂を閉めておこうという考えもありました。でも閉めてしまうと正面にある阿弥陀如来も見えませんし、せっかく子どもたちが来ているのに「お寺で遊んだ」という記憶をとどめてもらえないんじゃないかと。ですから初回から完全に開放しているんです。

東京のホテルマンが、地元で住職になるまで

—— そもそもご住職が徳浄寺を継がれたのはいつ頃ですか?

2007年5月に徳浄寺の住職となり、今年で13年目になります。それまで私は東京に住み、老舗ホテルグループに勤めていました。ホテルマンとして接客サービスをしたり、人材教育に携わったりしていたんです。
徳浄寺は母親の里で、祖父が住職でした。そして私の実家もお寺ですが、子ども時代は“お寺の子”ということで我慢を強いられることも多く、お寺のことは大嫌いでした。その反動で高校時代はヤンチャをしていたこともあります。

—— それは意外なご経歴ですね。

ただ人生経験を積んで50歳を過ぎた頃から「何かもっと人さまのお役に立つことがしたい」と思うようになり、以前から跡継ぎを探していた徳浄寺に55歳のとき戻りました。東京からこちらへ戻ってしばらくはよそ者の感があったように思います。しかし時間をかけて地域の方々と交流するなかで、少しずつ地域のなかに入れてもらったと感じています。ですから今はこちら に移住された方が地域に溶け込めるような活動もサポートしたいと思っているんです。

—— では、子どもの居場所づくりに賛同されたのも、人の役に立ちたいという想いから?

今の時代、子どもたちがお寺と接する機会が少ないでしょう。駄菓子屋にふらっと来てくれた子どもたちが、ここで挨拶をするとか、いじめはしてはいけないとか、感謝の気持ちを持つというような、道徳的なものを自然に学べる場になればいいなと思っています。

浄土真宗は、庶民のための宗教というのがベースにあります。選ばれた人だけが悟りを開くのではなく、あらゆる人のための救いがある。だから私も地域の人々や子どもたちのなかに混じり込んでいって、これまでの人生経験を活かしていきたいと考えています。

放課後だけでなく、いつでも帰ってこられる場所に

—— 駄菓子屋がオープンしてから3年経ちますが、子どもたちの様子は変わりましたか?

特に変わっていないと思いますよ。小学校を卒業して中学生になってもたまに顔を出してくれる子もいます。ひとつ挙げるなら、私と子どもたちとの関係はよりフラットになっているかもしれません。子どもも大人も、お寺やお坊さんって近寄りがたいものだと思っている人がいますが、こうした活動を通じて、もっと親しみやすい場所だということを伝えていきたい。3年経ち、私が思い描く気さくな僧侶の姿を感じとってくれていれば嬉しいですね。

—— 駄菓子屋が開いているときは、ご住職もこの場におられるんですか?

用事がなければお付き合いしています。お天気がいい日は、境内で鬼ごっこの鬼役をさせられていますよ(笑)。

—— ほんとにフラット過ぎる関係ですね(笑)。では子どもから深刻な悩み相談があることも?

ここに来る子では深刻な相談はありません。いじめが問題になる時代ですから、「こないだケンカしたよ」とこっそり教えてくれたら嬉しいですけどね。ただ、あまり学校に馴染めていない様子の子は知っています。何か事情や理由があるだろうから、こちらからは「元気か?」「よかったらまた駄菓子屋においでよ」と声をかけて、そっと見守るだけです。駄菓子屋で知り合ったからこそ、見守る関係にもなれるんだと思います。

—— それは子どもにとっても地域にとっても心強いのではないでしょうか。これからお考えのことはあったりしますか?

この地域には定年でリタイアされた元先生もおられますから、そういう方たちに現役時代の経験を活かしてもらって堅苦しくない勉強会や寺子屋のような場所になればいいですね。そして学校や家庭で何かあったときでも子どもたちが気軽に来られるフリーな場所になれば。徳浄寺は子どものすさんだ心を癒やせる、いつでも帰ってこられる場所でありたいと願っています。

浄土真宗本願寺派・徳浄寺

住所: 滋賀県大津市南小松908
電話: 077-596-1266