性教育は、生教育。地域の子どもをみんなで守るために。

  • いのちのお話会

初秋のある晴れた日、南小松のお宅で「いのちのお話会」という集まりが開催されていました。主催者は、REeditの別記事(https://reedit-northotsu.com/life/326/)でも登場いただいている加藤真帆さん。講師は、幼児期からの「生と性の教育」講座を開催している山本絹枝さん。そして参加者は、湖西地域で子育てするお母さんたち。

私が会場に入ったときには、すでに10人以上が集まり、山本先生の軽快な語り口に耳を傾けていました。ヴァギナ、ペニス…とストレートな言葉が飛び交いますが、まったくいやらしさを感じさせません。どんどん当たり前のこととして頭に入り、最後には今までの性教育のイメージ自体が変わっていました。

自分の体を大事にして、他人を思いやる。いのちを守る始まりは性教育だということ。地域全体で共通の認識を持つことが平和につながる。そんな大きな学びを得たお話会。これからさらに広がっていくといいなという願いを込めて、加藤さんと山本先生、参加者それぞれのコメントを紹介します。

性教育から、いのちを大切にする平和な社会へ

—–– 今日のお話会は加藤さんが主催ですが、どういった経緯で山本先生をお招きすることになったんですか?

加藤:最初のきっかけは昨年の春、高島市で山本先生がお話される「親子で聴く性教育」に申し込んだことです。ちょうど年中の長男に月経や性の話をどう伝えたらいいんだろうと悩んでいた時で、何かヒントがもらえたらいいなと思ったんです。でもコロナ禍で中止になってしまい、どうにか山本先生のお話が聞けないか調べたら「6人集めれば開催できる」とわかって。それなら集められる!とまずは昨年12月に1回目を開催しました。今回は2回目です。

実は1回目のお話会の終わりぎわ、山本先生が「正しい性教育が広がると、世界が平和になると思うのよね」とおっしゃったのが印象的で、その言葉にスイッチを押されちゃいました(笑)。

—–– 加藤さんはもともと自分から引っ張っていくタイプではないそうですが、周りに声をかけるほど心動かされたんですね。

加藤:はい、普段はほんとに主催者とかするタイプじゃないんです。でも多くの人に知ってもらいたい!という気持ちがどんどん強くなるくらい、大きな出会いでした。

1回目に山本先生のお話を聞いた後、これは保育園のみんなにも聞いてもらいたいと思って、保護者会の役員に立候補したんですよ。現在は会長さんや他の役員さんとも相談しながら、保護者会主催で11月末にお話会を開催できる予定で進めています。年長さんから始めて、今後は小学校、中学校でも段階的に子どもたちが性教育のお話を聞けるようにしていくのが目標なんです。まだ夢を描いているだけですけど、今回はその第一歩ですね。

△いのちのお話会 主催の加藤さん

—–– 山本先生は、このような地域のお母さんたちのお話会に呼ばれてどうお感じですか?

山本:加藤さんのように、まずは一人の方に「みんなに聞いてもらいたい」と思っていただくことが大事。一人が理解してくださると、次の人、次の人へとつながっていく。そして地域の子どもも大人もみんな同じ認識でいれば、平和にもつながっていく。大げさかもしれませんけどね。

地域で子どもたちを育てよう、守っていこうとしたら、いのちを守る最初はやっぱり性教育だと私は思っているんです。

家族で性の話ができると、関係がぐっと深まる

—–– 山本先生が性教育のお話をされるようになったきっかけはあるんですか?

山本:もともと家族の問題について興味があって、次男が大学に入ったのを機に、家族問題カウンセラーや結婚教育相談員、赤ちゃん先生トレーナーなどの資格を取得しました。そして2013年から子育てママを応援する活動をスタート。私は野洲に住んでいるのですが、草津や近江八幡、彦根などいろんな地域のママサークルへ行って、ママと子どもたちとの触れ合いを大事にしてきました。そのなかで生=性の教育の必要性を感じたんです。

でも私が性教育の話をしだした頃は、主人や姑からも白い目で見られるほど周囲の理解が全くなかった。当時、私は51歳、主人は53歳。性教育なんてありえない世代ですからね。ところが私のやっている「幼児期からの生命(性)教育講座」にNHKの取材が入り、4回ほど放送されたら、周りの見る目が一変しました(笑)。そこから少しずつ周囲の性教育に対しての感覚が変わってきて、野洲の幼稚園の講演も増えてきて、今はようやく幼稚園の先生の研修に呼んでいただけるまでになりました。

△子育てママ支援アドバイザーの山本絹枝さ

—–– 今日お話を聞いて、私も性教育のイメージが変わりました。ただのイヤらしい話じゃなく、いのちや人を思いやることにすごくつながるんだなって。

山本:「性」っていうと性器や性交渉がまず思い浮かびますよね。私も最初はそんな感覚でした。でも世界の性教育を勉強すると、全然違うんです。日本の性教育は精通や月経の話から入りますが、オランダでは0歳の性教育もあるんですよ。人間は誰もが性的な存在。お母さんが赤ちゃんの背中をよしよしなでる、そこからもう性教育が始まっているという考えです。

だから私が幼児たちに性教育の話をするときは、まず体の仕組みからお伝えしています。食べ物を食べてウンチが出るのは当たり前?実は当たり前じゃなくてスゴイことなんだよと。体の仕組みのスゴさがわかると、「体を大事にしてね」「いのちは大切にしないといけないのよ」っていう言葉もスッと入っていくようになりますから。

—–– なるほど。小さいうちから体の仕組み、性について知るのは必要ですね。

山本:こういう話ができる場をどんどん増やしていければ、子どもたちの感覚も変わっていく。お母さんたちが「恥ずかしくないんや」ってわかれば、旦那さんも巻き込んでいける。性教育って家族で話すのはハードルが高いでしょ。でもこのハードルを越えたら、親子間、家族間でタブーがなくなって、進路のこともいじめのことも子どもは何でも親に話してくれるようになります。大きくなっても悩みを打ち明けられる関係がつくれるんですよ。

幼児期から段階的に性教育を広げていきたい

—–– 「いのちのお話会」では今後どんな活動をされていく予定ですか?

加藤:子どもたちに性教育のお話を聞いてもらえるように、湖西地域で活動の輪を広げていきたいですね。まずは保育園と幼稚園から。小学校や中学校で取り入れてもらうのは難しそうな気配があるので、どうやったら提案が通りやすかったかなど情報共有しながら、楽しんで続けていきたいと思っています。

山本:ぜひお願いします。私たちが園や学校にかけあうより、保護者の方たちが言ってくださるほうが通りやすいんです。園も学校も新しいものをなかなか採用したがらないですからね。

加藤:でも聞いた話だと、中学校でLGBTの教育はあるそうなんです。性教育はなくても、LGBTは人権の話だからオッケーだって。

—–– 性教育も人権の話ですよね。

山本:ほんとにそうなんです!最近ようやく性教育を人権と捉えてくれるようになってきつつあります。日本は戦争もないし、物にも恵まれているし、平和じゃないですか。でも心が荒んでいる印象が私にはある。みんなが自分を大切にして、相手を思いやる。性教育を通じて、心が平和で穏やかにいられる世界にしていきたいと思いますね。

—–– こうしたお話会も、一部の方たちだけでなく、みんなが平等に聞けるともっといいですね。

山本:加藤さんを含めて、私を呼んでくださるようなお母さんたちは性教育に対して意識が高い方なんですよ。私自身も勉強させてもらうことが多いです。でも世の中にはいろんな親御さんがいらっしゃいますし、本当は性教育について意識されていない方にこそ届けたい。

それと子育てママ支援アドバイザーとして、現在はシングルマザー・シングルファザー・ワンオペ育児をしているママさんやパパさんをサポートする「Silkのおうち」もオープンしました。子育ての悩みを相談したり、子育てに必要な情報を共有できたりする場にしていくので、皆さんもよかったら遊びに来てください。

—–– 親を支援することが、子どもを守ることにもつながりますよね。加藤さんは今回のお話会を開催してみていかがでしたか?

加藤:前回以上に、参加者のお子さんの年齢層も幅広く、いろんな意見が出て有意義でした。受け取り方も人それぞれで、聴くタイミングと子どもの年齢でも感じるところが変わるでしょうし、10人いれば10通りのストーリーがあるのだなと改めて感じました。

今後も性のお話に限らず、子育てのこと、コロナ禍での規制から少しでも子どもたちを解放し、見守っていけるよう、草の根レベルで活動を広げていけたらいいなと思っています。

参加者たちにも感想を聞いてみました!

「目から鱗なことがたくさんありました。ちょうど長男が体のことを気にし始めた時期だったので、どう伝えたらいいか、ためになるお話を聞けて良かったです。紹介された絵本も早速買いました。年長の次男は赤ちゃんがどうやってお腹にくるのか疑問だったようで、本を読んでもまだピンときていないものの、わからないなりに納得したようです。子どもと話す機会も増え、少しずつ前進しているんだなあと感じています」

※コメントと写真は関係ありません

「現代の子どもたちの性をとりまく現状は自分の想像をはるかに超えていて、衝撃の連続でした。我が子はまだ小学生ですが、無防備なところがあるので、いざというときに子どもが自分で自分を守れるよう、これから一緒に勉強していきたいと思いました。

山本先生のお話は、実践に結びつく具体的な声かけや、月齢に応じた対処法のヒントを教えてくださったので、一歩を踏み出しやすいと思います。家に帰ってから、早速おちんちんの洗い方やプライベートゾーンのお話などを小3と年長の息子たちにしました。小さな冊子を食い入るように見て、無邪気に質問する息子たちの姿に、媒体があると私も照れずに説明しやすいと感じました」

「山本先生の講演とてもよかったです。“仲良し家族”は時に性の感覚を誤らせるというような話題にはドキッとさせられました。我が家には小学生の男女が3人いるので、そろそろお風呂や寝室を分けないといけないなと思いました。

ただ今回も帰ってから夫に性教育の必要性について話しましたが、反応はあまり良くなかったです…。思えば小さいころから痴漢に遭ったり、卑わいな言葉やわいせつ行為にさらされたりすることが多い女性と違って、男性には危機感が少ないんですよね。正しい性教育こそ、我が子を守る手段なんだよと口を酸っぱくして言っていかないと、と改めて決意した次第です」

「学校に性教育をもっとしっかり組み込んでほしいって、お話を聞いてより強く感じました。先生たちはただでさえ忙しくて時間がないと思うので、山本先生のような専門的な先生を招いて、学校で性教育をするのがいいのではないでしょうか。小学校、中学校での学びはすごく大事。高校生になったらもう手遅れかもしれません。性教育について、親も「やってほしい」という人と、「いやいや、いらないよ」という人に分かれるのが難しいところですが、ぜひ国をあげて力を入れてほしいです」

「今までは子どものお尻を「かわいい、かわいい」って簡単に触っていたけど、ちゃんと年齢に応じて考えていかないといけないな、自分がよかれと思っていたコミュニケーションが違ったかもしれないと考えるきっかけになりました。また私が聞いた話を家族に、そして地域に広げていきたいという気持ちがふつふつと湧いてきました」

△毎月1回、子育ての悩みなどを相談できる「Silkのおうち」
ブログのお写真を参照しています。

子育てママ支援アドバイザー 山本絹枝さん

山本絹枝さんの情報はこちらから
WEBサイト→http://silksmind.net/
Blog→ https://ameblo.jp/silk-1130/
Instagram→ https://www.instagram.com/yamamotokinue/

※保護者向け、幼児向け、小学生・中学生・高校生に向けての性のお話など
6人以上でお話会を開催できます(参加費1000円)
興味のある方は、山本先生のサイトからメッセージをお送りください。

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  • 文 :
  • 和泉華織
  • 写真 : 山崎純敬
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