地元のお母さんが営む喫茶店で聞いた「結」の心

  • ローカルライター 松尾 帆乃花

今回訪れたのは、JR比良駅を出てすぐにある『ほっとすいていしょん比良』。ここは、「自分たちで作ったお味噌を地元で売る場所がほしい」そんな思いで、2004年1月に北比良グループの後継者が主軸となりオープンしました。米味噌をはじめ手作りのお弁当、お惣菜、パン、お菓子の販売や喫茶の営業もしています。もうすぐ20年を迎える今。お互いに手伝いあう「結」の心で支えられ、この地域にその輪が広がっているようです。

*「結」とは、農村社会に古くから見られる慣行で、農家相互間の交換契約に基づいて、互助的に行う共同労働である。

(全国市町村会ホームページ)

北比良グループのはじまりは1967年。農村女性の地位向上を目指し、農繁期の共同炊事や地域の清掃などを行う生活改善グループとしてはじまりました。2002年に北比良グループに地元の主婦が後継者として9名入り、そのうちの1人だったのが、現在代表を務める山川君江さん(以下、山川さん)。開店当初のことを振り返り、「資金もないなかみんなフライパンとカセットコンロを家から持ってきて、一生懸命、畑で採れたさつまいもを揚げていました。ほんとに無我夢中。随分遠回りしたんやけど、その間にみんなの気持ちがひとつにまとまってきたな」そう笑いながら語ってくださいました。

開店当初のしんどいときも共に過ごし、時間とともに気心の知れた仲間になってきたようです。仲間の顔を見て、最終的に残るのは「わたしはこの人を支えたい。」そばにいる仲間は、「そう言っているあなたを支えたい」そんな想いがここほっとすていしょん比良にはあると言います。このように全体としてなんとなく支え合っているのがこの場所。山川さんは「ほっとすていしょん比良ではね、不思議と出会いがあるんですよ。それを見ているのはものすごい楽しい」と日々の楽しみをほろり。子どもたちが庭で転がりながら遊んでいるそばで、はじめましてのご家族同士の会話も弾みます。「こぼしてもかまへんかまへん」そんなスタッフの方々の声かけを聞き、安心して子どもを連れてこられるご家族も多いのだそう。

比良地域を見渡しながら、この地域の未来にも思いを馳せてくださいました。「若い人もおばちゃんたちも、いろんな形でがんばる。あっちもこっちもいろんな形で繋がる。魅力的な地域にね。お互いに持ちつ持たれつやっていくのが「結」やし、ちいさなことでも「手伝うよ」そう言ってもらうだけでも助かるやん。それが心の支えになるし、その繰り返し。できることしかできひんからね」

「結」の心とは、「ちいさなことでも手伝うよ」そんなひとことに詰まっているのだな。山川さんが笑顔で語る言葉を聞いているとなんだかじわじわと心があったまってきます。

プロフィール
薬学部に通う学生です。好きなことは、本を読むこと。『モモ』は大好きな作品のひとつです。ひとつひとつの言葉から成り立つ文章は、情報を「伝える」ものでもありますが、その文章が「届いた」とき、違う世界に入り込み、ほっと前向きになれたりするものです。そんな作品作りをともに学ぶ仲間を探しているときに、ここにたどり着きました。生まれてから滋賀県に住んでいますが、湖西に初めて訪れたのはつい最近のこと。琵琶湖のほとりに田畑がある景色や、さざなみが聞こえる生活は、何故だか心に残り続けます。そんな湖西をフィールドにして、個性的な方々と「書くこと」についていろんな角度から学び、味わい尽くしたいと思っています。

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  • 松尾帆乃花
  • 写真:岡本 七海