取材先は「ほっとすていしょん比良」に決まったと聞く。ほっとする駅?どんな人たちが何をしている?比良のどこにあるのだろう?訪れたこともなければ、名前すら耳にしたことがなかった場所。滋賀県初心者の私は、新たな出会いに対する期待感を胸にまずは下調べを行った。
いざ「ほっとすていしょん比良」へ!
上着を1枚余計に持ってこないとぶるっと身震いしてしまうような日和。初めて「ほっとすていしょん比良」へ訪れた。比良駅前に位置し、水曜日・日曜日の週2日、家庭の味が堪能できる軽食喫茶を営業されている。木の温かみを感じられる店内には、手作り味噌やお惣菜が並ぶ。流れている音楽や映像、陶芸作品も滋賀ゆかりのもの。そんな地元愛あふれるお店を営むのは、お味噌の加工や食育活動などをされている北比良グループだ。メンバーは地元のお母さんたち。田んぼや比良山系を目の前にして、北比良グループ代表の山川君江さん(以下山川さん)にお話を伺った。
地域の人と人を結ぶ、橋渡しになるまで
「麹から作るこだわりのお味噌を近くで販売したい。」ささやかな希望が募っていた矢先、お味噌をはじめとする加工品や特産品の販売拠点をタイミングよく得られた。2003年12月に始動し、なんと翌年1月にオープン。無我夢中で駆け抜けた1か月であった。
オープン当初、喫茶店を営むつもりは全くなかったそう。しかし、北比良グループ活動のひとつである「畑でコンサート」で軽食を提供した際にとても喜ばれたことから、食事の提供も始めるようになった。メンバーの多くが子育てに奮闘し、時間的・経済的な余裕がない状況。家からフライパンなどの調理器具を持ち込み、あるものだけでできるものをお届けする。この地域特有の比良おろし(滋賀県比良山地東麓に吹く局地風)に耐え、売上750円の日があってもめげず、お互いがお互いを支えあいながら続けてきた。
「結」という字が好きだという山川さん。次第に、お客さん同士の交流も生まれるようになり、「ほっとすていしょん比良」は人と人とを結ぶ場になった。あちこちで「結」が生まれ、育まれていく。
自分たちのこれから、地域のこれから
次世代を担う後継者についての考えも伺った。自分たちの始末は自分たちで行うと決めているお母さんたちは、去る者は追わず来る者は拒まずのスタンスを貫いている。大きな看板を背負う役目を誰かに押し付けるわけでもなく、血眼になって探すわけでもない。印象的だったのは「地域全体が後継者になれば」という言葉。「ほっとすていしょん比良」をきっかけにして生まれた地域への愛着や人との繋がりが、たとえお店が存続しなくとも、地域全体・住民に心地よい循環を巡らせていくことを願っている。山川さんらは、苗木が大木になるまで何十年もかかるように、琵琶湖の営みが延々と続いてきたように、そんなスケールで遥か先を見つめている。ここから発せられる想いや温かさに度々触れに訪れたくなる場所であった。
プロフィール
神奈川生まれ。東京海洋大学3年生。専攻は漁業経営や水産経済。物心ついた頃から、魚が大好き(特に淡水魚)。高校生の時に築地市場へ足を踏み入れたことをきっかけに、水産の世界にも興味を抱く。コロナ禍では、全国各地の漁村に滞在しながら、オンライン授業を受ける。次第に漁師さんの生き方や暮らしに惹かれていき、淡水魚の聖地である〝琵琶湖〟の漁師を目指すようになる。四季折々の自然の営みや琵琶湖独特の漁法など、琵琶湖にまつわること全ての虜に。現在、琵琶湖の漁師のインターン中。