比良をさんぽしていて出会うものたちは、人よりも動物のほうがずっと多いです。
動物たちとは大体、挨拶もせず、お互いそしらぬ顔で通り過ぎます。
比良にあらわれた「打明」は、あふれるような人を抱えていました。
ただ単にたくさんの人がいる、ということではないですよ。
交わされる言葉があり、思いや感情のやりとりが行われる「人の群れ」です。
この地域では、「人の群れ」を見ることはほとんどありません。
だから、打明は、わたしの目にはおどろきとして映りました。
田園のなかでしずかに眠っていた大きな倉庫。
それを、無数の人の息づく“オルタナティブ公民館”に変身させた干川弦さん。
なにを見つめている人なのでしょうか。
その輝きを追いかけてみます。
干川さんはある日、家を建てようと土地を探していました。
途中、比良バイパスから見おろす空と湖の風景に心を奪われます。
「ここだ」そう気づきました。
そして、この地域との関係がはじまっていきます。
自然を想いながら暮らす近所の人たち。
ともに過ごしていく時間のなかで、自身でも『地域や自然』というものの
響きが増していきました。
『自分がいる地域を大切にできる、みんなの場所』をつくりたい。
次第に、想いは願いとなり、現実として形になっていきます。
人間のつくった現代の社会は、人間にとって都合のいいもの。
ですが、彼はそれを実態のない夢のように感じることがあるそうです。
浜や夕焼けをしずかにみつめる時間。
自然が心にふれ、生まれていく感情は嘘ではなく、ほんものでした。
…「自分の人生は死んでしまえばぷつりと消えるフィクションなのかもしれない」
「だけど、だからこそ生を充実させたい」…
人と自然の中でゆれうごきながら、大きな流れともいえる運命のほうへ、彼自身の足はたどりついたのかもしれません。
彼は、それがこころであれ、ものであれ
あいまいな暗闇でも光をあて、そのすがたを浮かびあがらせる。
ふと浮かびあがり、みえてくるそれを彼の目はみつめ、
手がとどくのならば、友人のように手をさしだします。
親しみのこめられた目をとおったこの世界のあらゆるものたちは
やがて友人として、干川さんのながい旅を共にするようになり
その輝きはときにふれられるかたちとして
ときには目にみえないつながりや、だれかの希望として
きょうという日にもすこしずつふくらみ、どこまでもひろがっていくのです。
オルタナティブ公民館「打明」
大津市北比良630−1
[常設店舗dryriver2nd営業時間]
11:30 ~17:00(売り切れ次第終了)
@uchiake_hira/
定休日/日、月
[常設店舗NINA SPICE STAND]
ローカルライター 渡邉 優夢
湖西で生まれ育ちました。
ここのすきなところは、しずかでいつでもきれいな琵琶湖と空の色がすぐそばにあるところ。
深くて濃い自然の季節のなかにいられるところ。
自然の中に入りこみ、そこに住み着こうとする人と、それにかまわない自然のやりとりの様子があちらこちらにあり、その多様なようすを眺めるのがとてもおもしろいです。
人がいない道を選び、うろうろとさんぽをして、そのような湖西の魅力をひとりで味わっていましたが、ちかごろは地域の方のお店やイベントに顔を出し、私が好きな地域を好きな方がたくさんいるのだというおもしろさにも気づきました。