都会で働き、暮らしの中心は山の麓で。

  • 島本さん一家

都会的な暮らしは便利だし、文化や娯楽も近くにあって刺激的で面白い。その一方で、仕事や雑事に追われて忙しい毎日に満たされない感じを抱くこともある。自然豊かなところでゆったり暮らせたらどんなにいいだろうと。

そんな憧れの暮らしを実現している家族が湖西にはたくさんおられて、取材を重ねるごとに引き込まれている自分がいる。今回お邪魔した島本さんは、大阪まで片道1時間半かかる通勤を受け入れ、山の麓での暮らしを選んだ。

その選択にはパタゴニアに勤める島本さんの理念や、地球環境への思いがある。自分の人生の優先順位は…?   便利さを追求した今の生活でいいのか…?   やさしい表情で語る島本さんから、鋭い問いかけをいただいたような気がした。

心地よい場所には住む価値がある

—–– 島本さんはアウトドアブランドのパタゴニアに勤めておられるんですね。

聖史:はい、今はサーフ大阪アウトレット店の店長をしています。湖西から大阪まで電車で 通っているんですよ。

—–– けっこう通勤時間もかかるんじゃないですか?!なぜ湖西を選ばれたんですか?

聖史:僕は京都生まれの大阪育ちで、滋賀のことはあまり知りませんでした。でも妻と結婚 後、住む場所を考えたときに、自然の豊かさ・交通の便・家賃などいろんなバランスの良かった滋賀に一度住んでみようかと、最初は気軽な感じで石山の賃貸物件に引っ越したんです。そこから夏はカヤック、冬はスノーボードに出かけたりしてどんどん滋賀が好きになって、このまま滋賀に住んじゃおうと。
それと若い頃に長野県のスキーレンタル用品店などで働きながらスノーボードを満喫するという自由な暮らしをしていた時期があって、雪の降る場所に住みたいという気持ちもありまし た。それでいいなと思う場所を探していくと、湖西の北側は山の雰囲気や琵琶湖との距離感といった“自然の濃さ”が自分たちにすごくフィットしたんです。

—–– ここは山の麓で、庭から琵琶湖も眺められて最高の場所ですね。

聖史:そうなんです。ここは奇跡的に見つかった場所で、以前は畑や檜林だったところです。湖西がいいなと思って石山からこのあたりの賃貸物件に引っ越して土地探しをしていました が、3~4年ずっといい土地が見つからなくて困っていました。すると「土地を探している人がいる」という情報を聞いたここの所有者だった方が、それならいいよと譲ってくださった。ここが決まらなかったら、もうどこに住んでいたかわからないくらいタイミング良く見つかって本当にありがたかったですね。コロナ禍でステイホームの時間が増えた今、家のまわりが心地よい環境だというのはさらに価値を感じています。

地球環境にやさしい暮らしを

—–– ところで、パタゴニアは環境保全に力を入れるグリーンビジネスの企業としても有名ですよね。島本さんもそういった理念に共感されて入ったんですか?

聖史:実は、若い頃は消費行動の激しいタイプでした。スノーボードのボードやウェアも1年ごとに新作に買い替えていたんですよ。自分が好きでやっていることだし、それが当たり前だと思っていた。でもある時、旅をしていて自分が食べたもののお皿やお箸をゴミ箱に捨てた瞬間、「ああ昨日も一昨日もこうして捨てたな」って。「これまでゴミをバラまいてきたような人生だったな」ってハッとしたんです。こんな無責任な生き方をしていたら地球なんてあっという間になくなってしまう、どうしたらより良い社会にできるんだろうと。そんな時に出会ったのが、パタゴニアの理念について書かれた本でした。

—–– その本との出会いが、パタゴニアへ入社されたきっかけですか?

聖史:そうです。自分がモヤモヤと考えていたことがすべて書かれていたので、じゃあこの会社で貢献できたらいいなと思って、最初はアルバイトとして採用してもらいました。あとは小さい頃からなぜか「平等」や「平和」が僕のなかのテーマとしてあって、その延長線上でパタゴニアの理念に共感できたのもあると思います。

—––  パタゴニアの企業理念は『故郷である地球を守るためにビジネスを営む』だそうですが、島本さんの暮らしのなかにも活かされている部分はありますか?

聖史:かなり活かされていると思います。何かモノを選ぶときの指針は、パタゴニアの理念と同じですね。例えば畑で作っている野菜はなるべく自然農法でするとか、ムダな消費をしないとか。できるだけ地球環境に負荷をかけない暮らしを心がけています。でも車だけはこの地域にいるとないと困るので、自分たちの考えとは矛盾しているんですけど。
それから毎週月曜日の朝、知り合いがやっている「Monday Beach Cleanup」に参加させてもらい、琵琶湖の浜のゴミ拾いも行っています。

—–– それはいいですね!湖西は琵琶湖が近くにあるので、自然環境への意識が高い人も多いのでしょうか?

聖史:そうですね。滋賀では農業をすると、農業廃水がすぐ琵琶湖に流れていっちゃうので、皆さん気を遣っておられると思います。特に湖西は自然豊かな地で、水もキレイだし、作物も誰が作っているのかが見えやすい。自分が地球に寄り添った生き方を選べば、正しい方向を向いた暮らしができる場所だと感じます。僕は都会も好きですし、大阪で働いているので、本当は都会にいながら自然にやさしい暮らしができる仕組みがあるともっといいなと思いますけどね。

—–– 都会だとどうしても消費活動に巻き込まれてしまいがちです。

聖史:そうなんです。だから仕組みを変えていくのがベストだと思っています。個人はもちろん、企業の力、行政の力も必要ですよね。今はSDGsに力を入れる企業も増えてきていますが、言って終わりではなく、どう行動していくかが大事だと思います。

大好きなインドと滋賀をつなぐ

—–– 奥さまのゆりさんも以前はパタゴニアに勤めてらっしゃったとか?

聖史:妻は僕より先に働いていたので先輩です。僕の知らないことをたくさん知っていて、今も教えてもらうことは多いですね。

—–– じゃあ自然環境を大切にしたいといった価値観も同じ?

聖史:価値観は近いと思います。性格は違いますけど(笑)。

—–– ゆりさんは現在何か活動されていらっしゃるんですか?

ゆり:パタゴニアを辞めてからは、大好きなインドの魅力やスパイスを伝えたいという思い で、「INDORI」というインド料理教室を開いています。今はなかなか教室を開けないのですが。

—–– ああ、だから戸棚にスパイスがたくさんあるんですね!どんな形態でされていたんですか?

ゆり:現地のインド料理を日本の食卓で楽しんでもらえるようなレシピを考案して、その作り方を自宅でレッスンしています。あとはイベントに出店したり、ヨガイベントでの食事担当をしたり。今はなかなか教室を開けないのですが、私が商品開発したマサラチャイやタンドリーチキンスパイスの販売を行っています。

これからは地域に恩返ししていきたい

—–– 湖西に引っ越してこられて暮らしぶりは変わりましたか?

ゆり:変わりましたね。子どもができて生活スタイルが大きく変化したこともありますが、以前より地域に根付いたというか。ふたりとも旅が好きなんですけど、そんなに旅に出かけなくても満足できるようになりました。この近くにいながら新しい発見がいろいろあるので。

聖史:ここに来させてもらってから、ほんとに人生が豊かになった気がします。妻とも「ほんとに来て良かったね」といつも言っています。子どもがいると毎日ゆっくりはしてられませんけどね(笑)。

—–– 湖西の魅力って何でしょう?

聖史:僕ら夫婦でよく言うのは、「地味なところがいいね」って。大阪や京都に比べるとたしかに地味なんだけど、その目立たない感じがいい。僕がこっちに引っ越した頃は、大阪の同僚たちから「なんでそんな遠いところに引っ越すねん」ってツッコまれていたんですけど、一度遊びに来たら「その気持ちがわかるわ」って言ってもらえる。今では実際に移住したいと考えている同僚もいますね。

—–– 私もその気持ちはわかります。このあたりから京都や大阪へ通勤されている方もわりといるみたいですよね。

聖史:仕事はもちろん好きですが、ここにいると暮らしに重きを置けるんです。衣食住と子どもの成長が中心にあって、そのまわりに仕事や遊びがあるイメージ。遊びも夏はカヤックや サップ、冬はスノーボードやスキーなど、ここにある自然を楽しめます。“暮らし”の本当の豊かさに目を向けた人たちが、湖西エリアを選んでいるんじゃないでしょうか。

—–– これからの暮らしについてはどうですか?

聖史:できることなら施肥を作って、出たものを肥料にしてという循環型の畑がしてみたいですね。なかなか今はそこまで手が回らないんですけど。それと僕たちはこの地域の自然、この地域に住んでいる方たちからたくさんのものを与えてもらっているので、何か還元できるものがないかなと考えています。

—–– そこもやっぱり与えて&与えられてという循環なんですね。

聖史:地元の方との人脈をつなげてくださった大家さん、ものづくりのワークショップなどで様々な学びをくれる友人、困ったらすぐ駆けつけてくれる電気工事士の友人など、ここに来てからいつも多くの人に助けてもらっています。だから僕たちも地域のなかに何か恩返ししていければと思いますね。

島本ゆりさんのインド料理教室「INDORI」

instagram https://instagram.com/indori.yuri