愛車は、レトロな雰囲気のフォルクスワーゲン タイプ2(通称ワーゲンバス)。ペットは、つぶらな瞳がかわいいマイクロブタのエマちゃん。ふたり共通の趣味はハワイ旅行やキャンプなどのアウトドア。そして奥さんのMAIさんは音楽活動をされているアーティスト。
好きなモノやコトに囲まれて自由に暮らしているように見える田中さんご夫婦ですが、最初からそうだったわけではないようです。湖西の旧志賀町で生まれ育ち、外の世界も見てきたご主人の敬士さんと、九州の都会育ちで、型にハマった生き方しか想像できなかったというMAIさん。
そんなふたりの価値観が湖西でどう変化していったのか。傍らにのんびり昼寝するエマちゃんに癒やされながら、お話を聞いてきました。
風も匂いも、地元のすべてが懐かしい
—— 田中さんはこのあたりが地元だとお聞きしました。ずっと滋賀ですか?
敬士:高校卒業まで旧志賀町の実家にいて、その後は韓国やアメリカに語学留学したり、飲食店の仕事で九州に行ったりしていました。結婚を機に戻ってきたのが30歳の頃です。
—— 海外や九州でも暮らして、やっぱり旧志賀町に戻ってこられたのは何かこの地域の魅力があるんですか?
敬士:僕もそうだし、他を見てきた地元の友達はみんな口を揃えて「ここに帰ってきたらめちゃくちゃ落ち着く」って言いますね。山と琵琶湖を同時に眺められる景色の美しさもありますし、匂いも違います。たとえば京都に遊びに行って、JR湖西線で帰ってきて志賀駅の扉が開いた瞬間に、緑の匂いや薪ストーブの匂い、田んぼの匂いなどいろんな季節の匂いが混ざった空気がブワッと五感を刺激するんですよ。
今でこそ薪ストーブですが、昔はお風呂を薪で焚いているお家が多かったので、そこかしこに薪を燃やす匂いが漂っていました。それと旧志賀町独特の風の強さを子どもの頃はうっとうしいと感じることもあったのですが、今はその風さえ懐かしい。地元のすべてが好きですね。
—— MAIさんは九州出身ということですが、滋賀のイメージってありましたか?
MAI:「滋賀といえば琵琶湖」のイメージはあったんですけど、琵琶湖ってこんなに大きいとは知りませんでした。周りに柵があるような湖だと思っていて(笑)。それに滋賀が関西だというイメージもなかったので、滋賀の方が関西弁を喋っているのが不思議でした。
—— 移住されてどうですか?
MAI:九州の大分や福岡に住み慣れていたので、最初の頃はホームシックのようなさみしさを感じることもありましたね。でもこっちに来てもう7年目。今はペーパードライバーだった車も運転できるようになって一人でどこへでも行けるし、同世代の友人や知り合いも増えて楽しく過ごしています。
本当に好きなものに囲まれた暮らし
—— ところでマイクロブタを初めて見たのですが、エマちゃんとってもかわいいですね。
敬士:そうなんですよ。このスローな動きが最高の癒やしです。もともと僕が犬好きなんですけど、重度の犬アレルギーということで、アレルギー反応の少ないマイクロブタを飼うことにしました。散歩は近所の公園にちょっと行くくらい、食べ物もマイクロブタ専用のものに野菜をのせてあげたらいいので、犬や猫と同じようにペットとして飼えます。
MAI:実はこの子を飼うために賃貸のアパートからペットOKの借家に引っ越したんです。今はもう家族と同じくらい大切な存在でかわいいですね。
敬士:僕はいま電気工事の仕事をしていますが、疲れて帰ってきたときにエマを見ていると気持ちがすごく和らぎます。言葉もけっこうわかっているみたいで、エマと2人でぼそぼそ喋ったりすることもあります(笑)。
—— 車もオシャレですけど、なんていう車ですか?
敬士:フォルクスワーゲンのタイプ2という通称ワーゲンバスと呼ばれている車で、1967年式のものです。この車を初めて見たのは中学2年生のとき。雑誌にワーゲンバスが載っていて、イスとハンドルしかないシンプルすぎる構造に「こんな車が世の中にあったんか?!」って衝撃を受けました。そこからいつか乗りたいと思って23歳のときに購入し、13年ほど維持しています。
—— ほんとに一目惚れだったんですね。
敬士:もうめちゃくちゃ愛着のある一台です。53年前くらいの車で、今は新車では売っていません。だから壊れつつもちょっとずつ直して乗っている感じ。たいていのところは故障して修理したので、部品は新しいものに代わっています。これはできる限り乗り続けたいですね。
—— アウトドアにもこの愛車で出かけるんですか?
敬士:こないだはワーゲンバスで富士山の麓まで行ってキャンプしてきました。もちろんMAIもエマも一緒です。カーナビでは4時間半と出るんですけど、この車遅いので7時間くらいかかりましたね(笑)。
MAI:私はこっちに来てから、彼の影響でアウトドアを楽しむようになりました。夏に近江舞子でキャンプをしたときにハマってしまって、冬も友達20人くらいと焚き火を囲んだりして。気が向いたらすぐにアウトドアへ出かけられる自然豊かな環境があるのもいいですよね。
—— 車もペットも個性的だなって言われませんか。
敬士:それよく言われます(笑)。でも、わざと人と違うものを選んでいるわけじゃないんです。本当に自分の好きなものを突き詰めていったらこうなっただけ。全然目立ちたがり屋ではないんですよ。
生き方を変えたターニングポイント
—— お部屋に飾られているベースは実際に弾かれるんですか?
MAI:私がたまに弾いています。
敬士:家に帰ったら、ノリノリでベース弾いているときあるよな(笑)。MAIはベースの他に、ピアノ、ドラム、サックス、ウクレレもできるんです。
MAI:(照れながら)もともと小さい頃からピアノをやっていて、音楽が好きなんです。それで今はパソコンの打ち込みで作曲もしています。ソフトを使って打ち込みしてマスタリングして、ジャケットもデザインしてと、すべて独学で。最近はいろんな定額制音楽配信サービスがありますよね。そこに審査をかけて通ったら配信してもらえるので、MAI TANAKA名義で活動しています。
—— えっ、すごい!じゃあ定額制音楽配信サービスに申し込んだらMAIさんの曲が聴けるんですね。どんな曲が多いんですか?
MAI:今まではピアノの音が入ったヒーリングミュージックやアンビエントミュージックをメインに作曲していました。今はまた違うジャンルに挑戦していて、よりエレクトロな、機械的な音を交えた曲を作っています。まだ本格的に始めて2年くらいなので、全く無名なんですけどね(笑)。
—— そもそも作曲や配信を始めたきっかけは?
MAI:最初のきっかけは、彼のつながりからBGMとなる曲の制作を依頼されたことです。それが周りに好評だったので、音楽配信の審査にもチャレンジするようになりました。初めての審査に通ったこともあり、そこから音楽活動の幅が広がっていった感じですね。
—— 大きな転機でしたね。
MAI:ほんとにそうです。私の両親は公務員と銀行員ということもあり、今まで「仕事といえばOL」というような型にハマった生き方しか頭にありませんでした。音楽もずっと好きだったけど、趣味で続ける選択肢しかなくて。でも湖西に来てから、画家さんやカフェを営んでおられる方などクリエイティブな人たちとたくさん出会って「こういう生き方もあるんだ!」と自分自身の人生観が大きく変わった気がします。自然のなかで暮らしつつ好きな仕事をしている人たちから刺激を受け、「自分も好きなことを追求してみよう」と思うようになったんです。
敬士:僕は実家も親戚も自営業が多く、周りの友人も好きなことを仕事にしていたりするから、そういう生き方が自然。MAIが自分の殻を破って、好きなことに挑戦する姿はすごく嬉しいし応援しています。
琵琶湖を望む新しい家で
—— これからの暮らしについてはどんなふうに描いていますか?
敬士:旧志賀町の馴染みのある場所に家を建てる予定で、今ちょうど設計してもらっているところです。うまくいけば1年後には引っ越しできているかな。その家で薪ストーブを焚きながら、友達をたくさん呼んで食事会するのが楽しみです。
MAI:土地を選ぶときに重視したのは琵琶湖の眺望。もともと私の実家も大分湾が見渡せる高台にあったので、そういう雰囲気の場所がいいなと思っていました。選んだ土地は2階から琵琶湖が見える場所で、そこに私の作業室を作ってもらう予定なんです。今は寝室の片隅で作曲しているんですけど、琵琶湖を望む作業室だったらまた違う創作意欲が湧くかもしれませんよね。
敬士:それは楽しみやな(笑)。
MAI:でしょ(笑)。自分の人生は自分がどう創っていくか。音楽活動だってうまくいくとは限らないけど、好きなことに集中して取り組める今の環境がすごくありがたいなと思っています。
MAI TANAKAさんの音楽活動
instagram: https://www.instagram.com/lokomalama808/
YouTube: https://www.youtube.com/channel/UC9kon1Oudlpv6JYH1MbsjIw/featured
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