福祉について考えてたら、地域のコトに行きついた!(前編)

  • 蓬莱の家共同作業所
  • 所長 西翔太さん

毎月第1日曜、琵琶湖のほとりに、おいしい食や暮らしのいいものが集まる“HOURAIマルシェ”。

この会場となっているのが「蓬莱の家 共同作業所」です。障害のある人たちの「働きたい」という思いに寄り添い、新しいしごとを次々と生み出しています。

この作業所を率いている所長 西翔太さんに、利用者さんはもちろん、地域の人たちも注目する、アイデアあふれる活動の裏側にある想いをお聞きしてきました。前編は、作業所の紹介や西さんのこれまでについて。

蓬莱エリアで動き出したソーシャルグッドな試みを通して、“多様な人が心地よく暮らせる街”について、一緒に考えてみませんか?

自分らしく働きたい!障害のある人のしごとを応援

ーー琵琶湖の目の前の一軒家で、 とてもピースフルな雰囲気ですね。早速ですが、蓬莱の家作業所はどんな活動をされている場所なのですか?

ここは、障害や疾患があって、一般的な企業で働くことに困難がある人に向けて、“自分らしく働く”ための支援を行なう場所です。就労支援施設、という言い方もしますね。具体的には、障害のある方に継続して働く機会を提供するとともに、活動を通してスキルアップを目指す職業訓練も行っています。

少し専門的になるのですが、こうした施設にはA型とB型があります。うちはB型事業所です。雇用契約を結べる状態にはないけれど、「働きたい」という思いがある方が通われています。現在の利用者は、精神に障害のある方が中心です。

ーー誰もが働く権利がありますから、地域にこうした場所があるのは素敵なことですね! 具体的には、どんなお仕事をされているのですか。

大きく4つありまして、ひとつはパンやケーキ、米粉などの食品製造です。フォカッチャやカンパーニュから米粉のパン、パウンドケーキ、グラノーラなど……種類もいろいろありますよ。和邇のベーカリー Coup Franc(クウ フラン)高木さんにご指導いただいているので、味にも自信があります! 

ふたつめは、アートやクラフト作品づくりです。布の端切れでオブジェや生活雑貨、アクセサリーを作ったり、シャツや靴にグラフティ感覚でペイントしたり。今日僕が着ているピンク色のシャツも、利用者さんがペイントした作品です。

△製造したパンは、蓬莱の家のほか、道の駅「妹子の里」、毎月第1日曜に蓬莱の家を会場に開催されるHOURAIマルシェで販売されている。おいしそう!

△所長の西さん。この日、たまたま作業所に遊びに来ていた2人の息子さんと。

ーーアクションペインティングみたいでカッコいいですね! 欲しいです。

いいでしょう? 新作もどうぞお楽しみに。そのほかの仕事は、シェアファームやビーチクリーニングなどの管理業務です。どちらも2021年春に始動したばかりです。

シェアファームは、誰でも気軽に農業ができるスペースです。作業所の前にレイズドベッド(ボックス型の畑)が並んでいて、1ベットずつ一般に貸し出しています。うちの利用者さんが農具の貸し出し、水やり、草むしりなどのサポートをするしくみですね。

ーーシェアファームが特にユニークですね! 野菜の世話や収穫に来たお客さんは、琵琶湖で遊んで、ピクニックもして帰れる……。蓬莱エリアのファンも増えそうです。それに、自然な流れで利用者さんとのコミュニケーションも生まれますね。

おっしゃる通り!僕たちが目指しているのはそこにあります。たまたまシェアファームが福祉施設だった、くらいの感じでいいんです。無理のない範囲で、地域の方とうちの利用者さんの“関わりしろ”が生まれたらいいなあと。そうそう、平日はカフェもやっているので、ウッドデッキのテラスで一服していただけますよ。ビールも飲めます! 

畑は3㎡ほどですが、選んでいただくコースによってはシェアファームのマネージャーで、近くで有機農園を営むひら自然菜園の加地玄太くんのレクチャーや、苗や種の提供を受けることも可能ですよ。

△作業所の前の土地は、元は耕作放棄地だったそう。作業所で借り受けて整備し、シェアファームに生まれ変わった。

△農薬や化学肥料を使わない有機ファームであることもこだわり。家族で通えば、食育になりそう!

ーープロのサポートも受けられるとは!「本格的なファームを作ろう」という心意気を感じます。ところでここは、門や塀もなくてオープンですね。

僕が2年前に所長に就任して以来、一貫して手がけてきたのは、ここでの活動を「見える化する」ことでした。障害のある人が自分らしく働いている“ふつうの日常”を顕在化させたかったんです。

ハード面でいえば、一般の方が利用できるコミュニティファームを作り、さらにテラスにカフェカウンターを設け、うちの利用者さんも、地域のひとも気軽に休憩できるウッドデッキも作りました。ソフト面では、毎月第1日曜に開催される「HOURAIマルシェ」の会場として協力をはじめました。さらに僕らも出店することで、地域の方と出会うきっかけを作ったり……。

なぜ、地域に対してひらいていくのか? それは、こうした活動について正しく理解されないことで、誤解や偏見を受けたり、地域社会から疎外されてきた経験が、うちに限らず起きてきたことだから。そうならないよう、できるだけ風通しを良くしていたいなあと。

△作業所からビーチまでのフリースペースも、蓬莱の家の敷地。写真は、HOURAIマルシェ開催時のようす。もしかしたら日本で一番、水辺に近いマルシェかも!?

地域に、新しい価値とソーシャルビジネスを

ーーあ、お客さんが来られました。窓から「おーい」ておっしゃってます。玄関を使わないのですね(笑)。

あはは。彼は、蓬莱の家のプロジェクトを手伝ってくれている建築家の岡山泰士くん。僕も参加している地域団体シガーシガのメンバーでもあります(4人のメンバーによるコレクティブで、大津市北部地域の活性化に向けて活動中)。この窓はカフェカウンターを兼ねているので、外から気軽に声をかけてもらいやすいんですよね。おはよう……! 

△テラスに設けられたカフェカウンター(小屋)とウッドデッキ。セルフビルドで制作。内(作業所)と外(地域社会)をゆるやかにつなぐ、縁側のような場所となっている。

ーー窓が大きいので、外からも中からもお互いの様子がよく見えますね! あ、別のお客さんも来られました。やっぱり窓からなんだ……(笑)。

△「熊をたくさん仕入れてきたよ」(市村さん)、「それは楽しみだ!」(西さん)。……どんな熊かは、今後のお楽しみ。

彼もシガーシガのメンバーで、現代美術家の市村恵介くんです。彼と、彼の奥さんでアクセサリー作家のはなさんには、利用者さんが作るオブジェやデザインの指導、食品のパッケージデザインを手がけてもらっています。簡単な打ち合わせなら、いつもこんな感じでやってますね。

そうそう、今日の写真を撮ってくれているフォトグラファーの山崎純敬さんもシガーシガのメンバーです。

ーーみなさんいい笑顔です! 建築にアート、写真、農業……各ジャンルのしごとを全力で楽しんでいる人たちがサポートして、利用者さんの個性を引き出しているから、どのプロジェクトも魅力的なんですね。

自信を持って言えるのは「自分たちが本当にいいと思うもの」を世に送り出していること。障害とかを取っ払っても、本気で楽しいことをやっている自負はありますね。

といっても僕は元々、アートや農業に大きな興味があったわけではなくて。たまたま所長になってみたら、同世代でおもろいことをやってる人との縁がどんどんつながった。食や芸術には、立場やことばを超えて人と人をつなぐ力がある。うちの利用者さんとクリエイターもそうだし、利用者さんとお客さんもそう。そのうち、知らない人同士もつながって、新しい価値が生まれていったら楽しいなあ!と。

ーー福祉の課題は、以前は内輪で解決してきたけれど、今はそうじゃない。多様な人の生きやすさを考えることだから、実は“地域の課題”でもあるんですよね。

そう! いろんな業種とコラボレートすれば、ビジネスチャンスはまだまだあると思う。ソーシャルビジネスをきっかけに、地域経済も元気になればうれしいなあ。ちょっと気が早いけどね(笑)。

地元愛炸裂!新しい所長がやって来るまで

ーー西さんはどんな経緯で、こちらの所長になられたのですか。

蓬莱の家は2008年に設立された施設(NPO法人)なのですが、理事長とは以前から面識があり、前任の所長が退職されるときに誘っていただいたんです。一度はお断りしたのですが、翌年にもう一度お声かけいただき、「それではやってみようかな」と。

その前は、介護保険を使って車椅子やベッドなどをリースする会社に勤めていました。高齢者福祉なので、似てるようで全然違う業界ですが。

ーーなぜ、引き受けようと?

もともと、ぼんやりと関心はあったんです。障害のある人たちが、周囲の理解がないために社会復帰ができなかったり、孤立したまま施設の中で生涯を終えることもあるということを耳にするたび、どこかもどかしい思いを感じていて。

ここに関わることでそうした後悔がちょっと減ったらいいな、自分で役立つことがあれば……くらいの直感で引き受けたのですが、実際に働きはじめてから「ここは、理想の場所だったんだなあ!」と感じたり、明確な目標がクリアーになっていった気がします。

ーー理想の場所と言えるのは、幸せなことですね。

昔から「地元に根ざして、地元のためになる仕事をしたい」という思いが強くて。実は僕、新卒で入社した東京の会社を、研修5日目に辞めているんです。ドン引きしないでいただきたいですが……(汗)。

というのも、関西支社枠で採用されたのですが、諸事情で本社採用に変わってしまったんです。それで研修で茨城県まで行きました。でも、いざ生活をはじめてみると、「自分がコミットしていない土地で暮らす理由がないな」と思ってしまって。「地域や風土の魅力もわからない僕が、ここで家を売っても説得力がない」と悟ったわけです。まあ、重度のホームシックだったと思われても仕方ないんですけど……(笑)。

ーーなかなかチャレンジングなご経験で……。ある意味、冷静に周りが見えていたんですね。

早く気づけよ、って感じですけれどね。僕は大きな事業を立ち上げて、一発当てたいわけじゃない。地域のためになることで、自分と自分の周りが食べていけるくらいの仕事ができれば、それが一番幸せなことだと思う。

ーーそこまで地元愛が強いのは、なぜなんでしょう。

なんでかな、当たり前すぎて考えたことなかった(笑)。 生まれ育った場所だから、愛着があるのかな。小中高の同級生とか知り合いがいっぱいいて楽しいし、ここにいるとほっとするんだよね。となると、人が理由かも?

ーー人と地元を大切に思う西さんだからこそ、多様な生き方を応援する現在の活動が合っているのでしょうね。後半では、気になる運営やお金のことについてお聞きしていきます。よろしくお願いします!

→ インタビュー後編へ続く

蓬莱の家共同作業所

住所:滋賀県大津市南船路271-1
Facebook: https://www.instagram.com/hourai_no_ie

<蓬莱の家cafe>

営業時間:平日10:00〜15:00

<HOURAI Share Farm>
1ベッド(3㎡)を月額2,000円〜レンタル可能(入会金・月額施設利用料は別途)。選べるコースの詳細などは、HPよりお問い合わせください。
ウェブページ:https://hourai-sharefarm.com/

<HOURAIマルシェ>

毎月第1日曜開催。荒天中止。
Instagram: https://www.instagram.com/hourai.marche
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