福祉について考えてたら、地域のコトに行きついた!(後編)

  • 蓬莱の家共同作業所
  • 所長 西翔太さん

毎月第1日曜、琵琶湖のほとりに、おいしい食や暮らしのいいものが集まる“HOURAIマルシェ”。

この会場となっているのが「蓬莱の家 共同作業所」です。障害のある人たちの「働きたい」という思いに寄り添い、こだわりのパンづくり、コミュニティファームの運営など、新しいしごとを次々と生み出しています。

この作業所を、抜群の行動力とあふれんばかりの地元愛で率いているのが所長 西翔太さん。今回は、多彩な活動の裏側にある想いをお聞きしたインタビューの後編です。少しまじめに、経営や未来のお話をしてくださいました。

多様な人が自分らしく輝ける場所が増えれば、地域はもっと元気になる! 蓬莱地域で動き出した、ソーシャルグッドな試みをどうかお見逃しなく。

→ インタビュー前編はこちら

避けては通れない、経営とお金のはなし

ーー蓬莱の家は、現在どれくらいの利用者さんがいらっしゃるのですか。

現在は18名の方が登録されています。みなさん、日々の体調をみながら出勤されるので、平均すると1日10名ほどが作業されている状況です。

ーーどんなビジネスモデルで運営されているのか、お聞きしてもよいでしょうか?

もちろんですよ。僕たちのような就労支援施設(B型)では、利用者さんの生産作業によって得られた収入から、利用者さんに工賃をお支払いします(最低賃金のしばりはありません)。一方、僕らスタッフは、利用者さんを支援する報酬として国から補助金をいただいています。これが僕らのお給料になるわけです。

国の給付額は、利用者さんに支払う工賃の額に応じて変わります。つまり、利用者さんが効率よく生産すればするほど(工賃が上がり)、給付額が増えて僕らの収入も安定するという構造です……。

ーー生産性が問われるのは意外でした。働くこと自体、成長することを支援する制度だと思っていましたから。

ですよね。だから、利益だけ考えたら症状が軽く、生産性が高い方に来ていただく方がいい。でもそうすると、それ以外の方は望ましくない、ということになりかねません。うちは、精神障害のある方が中心ですが、症状の重い方も、さらに重度の知的障害がある方も通われている。当然、ほかの方より作業スピードが遅くなるわけです。でも、僕はそれでもいいと思う。効率より大切なものがあるはずだ、ってね。

ーー大切なものとは?

利用者さんが継続してうちに通い続けることで、社会との接点を持ち続けること、活動を通して「働きがい」を見つけること。 障害のある人たちの「居場所」であり続ける視点も、僕は必要だと思う。

ーー活動を通して生まれた目に見えない変化や価値も、評価されるようになるといいですよね。でも、それだと経営はうまくいくのですか?

うまく回っているので、ご安心を。そのために、僕も5人のスタッフも日々がんばっていますから!

3歩進んで2歩下がる。いや、それ以下だっていいんだ

ーー作業所の運営で、気をつけていることがあれば教えてください。

いろいろ新しい試みを進める一方、変化の速度が速すぎないように、そのことで利用者さんに余計なストレスを与えることがないよう気をつけています。精神障害は、些細な環境の変化が大きなストレスとなり、症状が悪化することがあります。「ここまでなら、チャレンジして大丈夫かな?」という範囲を、ていねいに見極めるようにしていますね。

ーー西さんが「この仕事を選んでよかった」と思うのは、どんなときでしょうか。

やっぱり、利用者さんによい変化が生まれたときですね。できなかった作業ができるようになった、コミュニケーションがうまくいくようになったとか。やったー!という感じで嬉しいですけれど、一方で、体調や些細な変化で元の状態に戻ってしまうこともある。精神障害は脳の病気であるものもあり、まだまだ分かっていないことも多いんです。がんばった分だけ報われる、というのとは少し違うところもあります。

だから、三歩進んで二歩下がる、またはそれ以下くらいの気持ちで、あせらずに進んでいけたらいいなと思っています。

ーーHOURAIマルシェの日は、みなさんが参加されるのですか。 

人によりますね。人と接することが苦手な方は来られませんし、大勢のお客さんでにぎわうので、よっしゃ!と張り切られる方もいます。ひとつ言えるのは、普段の生産作業中に「マルシェに向けてがんばって仕上げよう!」というモチベーションは、それぞれの方に育ってきたように思いますね。

これが僕らの、ふつうの日常

ーー今日は土曜日でお休みですが、お子さんと来られているんですね。

よく連れて来ますよ。週末にここで用があるとき、平日でも学級閉鎖で学校に行けない時などに連れてきて、利用者さんと一緒に作業をさせたり、自由に遊ばせています。蓬莱の家は僕の生活の一部だから、それを息子たちにも知ってほしい。多様な背景をもつ人がいる毎日が、僕だけではなく、彼らにとっても自然なことなんだってね。

スタッフの子どもたちもよく来ていますよ。昨日も「保育園、間に合わへんかった」といって(笑)、3歳くらいの幼児が1日ここで元気に遊んでいましたね。

ーー西さんたちの活動は、地域社会にもいい影響を与えてくれそうですね。

影響を与えたい、とまでは考えていないんです。地域住民の方に、「こういう場所がある」と知っていただくだけで、僕は十分だと思います。無理にコミットいただく必要は全然なくて、多様なひとがこの地域で暮らしていること、それぞれが自分らしく生きていることを知ってもらえたらいい。それだけで、僕ら一人ひとりの“心の幅”みたいなものが、ちょっぴり広がると思うんです。

目に見える変化はすぐにないかもしれない。でも、そういう人が少しずつ増えていくことで、将来、僕の子どもが大きくなった頃には、今よりもっと暮らしやすい地域になっているのではないかなあ。

今あえて、「僕の子ども」と言いました。立場的には、“未来の子どものため”とか“みんなのため”というべきなんでしょうけど。僕は元来エゴイスティックな人間なので、何よりもまず、父親として僕の子どものためにいい地域、いい世の中を作ってあげたいんです。

ーーいえいえ! “みんな”は、聞こえのいいマジックワードですけれど、具体的な相手の顔が見えませんよね。何かをはじめるときは最小単位で、目の前の人の幸せを考えたいですよね。

どの活動も、他人ごとじゃダメなんだよね。「自分ごと」としてはじめないとね!

ーー生き生きと活動する西さんや利用者さん、前編でご紹介したお仲間たちの姿に、刺激される方もきっと多いと思います。楽しい自分ごとが増えて、どんどん周囲を巻きこんでその輪が広がっている蓬莱エリア。さらなる進化が楽しみです。西さん、ありがとうございました!

蓬莱の家共同作業所

住所:滋賀県大津市南船路271-1
Facebook: https://www.instagram.com/hourai_no_ie

<蓬莱の家cafe>

営業時間:平日10:00〜15:00

<HOURAI Share Farm>
1ベッド(3㎡)を月額2,000円〜レンタル可能(入会金・月額施設利用料は別途)。選べるコースの詳細などは、HPよりお問い合わせください。
ウェブページ:https://hourai-sharefarm.com/

<HOURAIマルシェ>

毎月第1日曜開催。荒天中止。
Instagram: https://www.instagram.com/hourai.marche
Facebook: https://www.facebook.com/Hourai-Marche-114140370445048