「比良の母」たちの、味、温かさを求めて

  • ローカルライター 奥田 彩

JR湖西線、比良駅から降り立つと、雄大な比良山系を背にしたお店があります。地元の女性たち6名の「北比良グループ」が営む『ほっとすていしょん比良』です。

多数のおかずがお重に詰められた「里山弁当」や、しっとり、かつホクホクした「コロッケ定食」など。その味を求めて、地元の人や、ハイキング帰りの人で賑わいます。

「ここでは、自分たちが普段作っている家庭料理が売り」と語るのは、代表を務める山川君江さん。地元の方々から「比良の母」と呼び親しまれています。

お腹が空いたお昼どき。外の空気を感じながらいただくごはんやお味噌汁は格別です。コクのあるお味噌は、地元のお米で作る麹を使って北比良グループが手作りしているもの。

2004年の開店当時は、お味噌を売るためのアンテナショップだったそう。なぜ、飲食提供を始めたのでしょうか?

「ここは駅前なので、いろんな人が寄ってくれる。道を尋ねに来る人も多かった。来る人に、少しでもくつろいでもらえたらいいなと、お茶を出したのがきっかけでした」

訪れる人をおもてなしする気持ちがそのまま形になった、現在のお店。さらに聞くと、お店を切り盛りする日々の喜びは「人と人との繋がり」にあるようです。

「不思議とこの場所には、お客さん同士の出会いがあるんです。ごはんを食べていると『景色がきれいですね』と話が弾む。お客さんの子どもが外に出て遊んでいると、別の子どもがやって来て、仲良くなる。そんな様子を見るのが楽しいんです」

そんな山川さんたち北比良グループの活動は、味噌づくりやお店の運営に留まらず、イベント開催にも及びます。地域の有志が集まり、山川さんが代表を務めて開催している「かんじる比良」は、まさに人々の繋がりを生むもの。周辺の景色を味わいながら、比良のお店を巡る散策型イベントです。

「比良には、この地域の自然が好きで引っ越してくる人がたくさんいて、たとえばギャラリーなどのお店を開いています。

そのギャラリーまで来たお客さんは、30分も作品を見たら、次にどこへ行けばいいか分からない。でも、ギャラリーオーナーさんも、どこを案内すればいいか分からない。

せっかくなら『次はあそこにも行くといいよ』と教えてあげられるように、お店同士が知り合う機会があるといいなと思っていたんです」

移住者から「孤独を感じていたけれど、かんじる比良をきっかけに友達ができた」と、感謝のお手紙が届いたこともあるそう。地元の人と移住者が知り合う機会にもなっています。

「橋渡しになれればいいなと思う。誰か困っている人がいたら『それならあの人に聞いてみたらいいよ』と、人と人とを繋ぐ。わたしたちにできる地域貢献といえば、そんなことかな」

山川さんが「比良の母」と呼ばれる理由は、お店でいただける家庭料理の味はもちろん、人を思いやる温かさにあるのかも。その穏やかな声を聞いていると、またここに来たくなります。ほっとすていしょん比良は、そんな温かな「母」たちに、会いに来れるお店です。

ローカルライター 奥田 彩

プロフィール
偶然、琵琶湖のほとりに暮らしている人。出身は和歌山県で、他府県や滋賀の他の地域にも住みつつ、2020年の結婚を機に湖西にやって来た。普段は会社員をしつつ、この地域の魅力を活かし・伝える活動がしたい思いから、2020年9月スタートのライターワークショップに参加。のんびり散歩する時間が大好きなので、RE edit North Otsuを見ている方にもお散歩をおすすめしたい。
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