セーラーとセラピストが湖西で描く夢

  • 笹木さん&山本さん一家

国内でも数少ないプロのヨットセーラーとして、世界を股にかけて活躍する笹木哲也さん。フィトセラピスト(植物療法士)として、植物やハーブの力を多くの人に伝えている山本真理さん。そんな異色ともいえるご夫婦が仕事の拠点&子育ての場に選んだのは、湖西の旧志賀町エリアでした。

3人の子どもたちと猫との暮らしは毎日がとっても賑やか。ご自宅のログハウスも、近所の雑木林や空き地も子どもたちにうってつけの遊び場です。夫婦ともに忙しい日々を送りながら、家族みんながのびのびと暮らせるのは自然豊かなこの地だからこそかもしれません。

「いつか自分のヨットを持って、琵琶湖で家族と一緒に乗りたい」

「人と植物が共生し、循環していくオーガニックタウンをつくりたい」

ふたりの描く夢は、湖西に移住してからますます大きく広がっています。

いつか湖畔に住みたかった夫と、のびのび子育てがしたかった妻

—–– 湖西に移住される前はどちらにお住まいだったんですか?

哲也:もともと僕らは和歌山にいた頃に出会って、大阪の吹田で暮らし、そこからこちらに移って来ました。吹田には妻の実家があって8年くらい住んでいましたね。

—–– 何がきっかけで移住を?

哲也:僕にはかなり昔から「いつか湖の近くに住みたい」という夢があったんですよ。

真理:それもあったかもしれないけど、直接のきっかけは違うでしょ。

哲也:え、違った?(笑)

真理:吹田でマンション暮らしをしていた当時、下の階の住人さんから騒音の苦情を言われたんです。子どもがバタバタ走り回るので「足音がうるさい」って。近くに私の実家もあったので、それまで全然引っ越す気なんてなかったんだけど、やっぱり子どもたちをのびのび育てられる郊外の戸建てがいいかなあと考え始めました。

その頃、私は大阪の能勢で農業研修を受けていたこともあって、最初は能勢や箕面あたりに移住するつもりだったんです。でもなかなか気に入る物件がなくてね。

哲也:そう。それに僕は能勢に行くのはあまり乗り気じゃなかった。

真理:ちょうど「近江おごとハーブガーデン」のオープン準備のため週2回ほどこちらに通っていたところで、滋賀もいいかも?と彼に言ったら、「滋賀のほうが断然いい」って(笑)。こっちに決めてからは物件探しもスムーズに進んで今のお家が見つかりました。

—–– 哲也さんが湖の近くに住みたかったのはなぜですか?

哲也:ヨットレースの海外遠征でいろんなところへ行く際、ほとんどは海ですけど、湖でのレースにも何度か出場しました。そこで僕がすごくきれいでいいなぁと思ったのはイタリアのガルダ湖やオーストリアのアッターゼー。「いつかこういうところに住みたい」ってずっと思っていました。

—–– 琵琶湖は日本で一番大きな湖ですから、念願叶ったんですね。滋賀のなかで旧志賀町エリアを選ばれたのはどうしてですか?

哲也:南から車で走ってきて蓬莱や志賀のあたりまで来ると、ぐっと雰囲気が変わるじゃないですか。山がバーンと出てきて。だから絶対に蓬莱から北がいいと思っていました。

真理:もっと北の高島市も考えたんだよね。二人だけだったらさらに田舎でもよかったんだけど、子どもたちの学校や交通アクセスを加味すると、このへんがまだ便利なのかなって。

哲也:ここは学校や駅も近いし、今のライフスタイルには合っている。いいところに来たなと思っています。

ハーブで家族の健康ケアをサポート

—–– ところで真理さんはフィトセラピスト(植物療法士)で、「近江おごとハーブガーデン」の室長でもありますけど、普段どんなお仕事をされているんですか?

真理:ハーブのことであれば、栽培から加工、研究、商品開発、教育まで、なんでもやっています。もともと大学時代は有機化学を学んでいて、卒業後、化学系メーカーの試験室に就職しました。彼も同じ会社のヨット部に所属していたので、そこで出会ったんですよ。

その後、エステサロンに転職して技術を学びつつ、アロマテラピーで使うハーブや精油の魅力を知って、自分のサロンを立ち上げました。ハーブとアロマテラピーを学ぶ教室を開いたり、有機ハーブ栽培を始めたりと、いろんなことをやってきました。そんななか2015年に「近江おごとハーブガーデン」をオープンするから手伝ってというお声がかかったんです。最初は大阪から週2回ほど通っていましたが、2016年のオープンと同時期にこちらへ移住したのを機に、室長に着任。自分がやってきた「緑と香りの学校TIARA」もハーブガーデンのほうに移して続けています。

△近江おごとハーブガーデンより写真提供

—–– なるほど。有機化学からハーブに行き着いたっていうのが面白いですね。私自身はハーブといえばハーブティーや料理に使うくらいですが、真理さんはどんなふうに使われるんですか?

真理:摘んできたハーブや植物ってそのままでは使えないので、カタチを変えてあげます。例えばハーブから浸出した油は「マッサージオイル」に使えますし、「バーム(軟膏)」にしておくと保存できます。あるいはボディスクラブにしたり、香りを楽しむポプリにしたり。もちろん飲み物や料理にも使えます。それにうがい薬やのどケアスプレーなど、健康ケアにも力を発揮しますね。

△近江おごとハーブガーデンより写真提供

—–– へぇ、いろんな使い方ができるんですね!ご自宅でもハーブは身近にありますか?

真理:そうですね。我が家の洗面所には市販のものは置いていません。石けんやトイレの匂い消しなんかも全部手作りです。

—–– 哲也さんは使われていてどうですか?

哲也:お世辞抜きにして、市販のものよりいいですよ。顔に塗るクリームはすごく気に入っていて、どこへ行くときも必ず持って行きます。ヨットをしていると日焼けが大きなダメージになるので、それを癒やすのにいいですね。

真理:実はスポーツ界でもアロマテラピーって注目度が上がっていて、海外の選手はアロマテラピーでケアをしている方も多いんです。

哲也:海外遠征にアロマセラピストを帯同している選手もいます。オイルマッサージで身体を癒したり、アロマの香りで気持ちを落ち着かせたり。アロマテラピーにはモチベーションアップとリラックス効果の両方がありますね。セーラーを続けるうえで、妻がハーブやアロマテラピーの専門家だというのはとても助けになっています。

△近江おごとハーブガーデンより写真提供 

湖西を拠点に、国内外のヨットレースに出場

—–– 哲也さんはヨットセーラーとして活躍されていますが、いつから始められたんですか?

哲也:ヨットは大学1年の時に始めました。卒業後船乗りを目指しましたが、ヨットへの夢がふくらみヨット部のある和歌山の会社に入社し、本格的にセーリングを学びました。会社を退職後、フリーで活動を始めました。

—–– プロセーラーって国内にどれくらいいらっしゃるもんですか?

哲也:プロセーラーの定義は特になく、セーリング以外の仕事をしながらプロの実力がある方もたくさんいます。ただ僕のようにセーリングを仕事としてフリーで活動しているセーラーは少数だと思います。

—–– 少数の中の1名ってすごいですね!今も現役で?

哲也:今もまだ現役です。続けられるのは支えてくださる方々のおかげです。体力的には年々きつくなってきますが、トレーニングを工夫することでまだまだ進化していきたいと思っています(笑)。僕の場合はレースに出るだけではなく、レース艇のメンテナンスやチームのマネージメント等も兼任しています。

△国内でのレース中の様子。哲也さんより提供。

—–– 今も国内外のレースに?

哲也:以前は欧米のレースを中心に出場していましたが、最近は国内のレースが中心です。昨年海外レースの予定がありましたが、コロナ禍で行けなくなりました。コロナが落ち着いたらまた海外のレースにも行く計画を立てています。

—–– レースでいろんなところへ行くなら、お住まいをもっと交通アクセスのいい場所にしようとは思われなかったですか?

哲也:たしかに吹田に住んでいた時は空港や新幹線の駅まで行くのにすごく便利でした。でも今だってJR湖西線に乗れば一本で京都駅まで出られて、リムジンバスやはるかで空港まで行けますし、そんなにアクセスは悪くないんですよ。

暮らしと仕事と遊びがゆるやかにつながるまち

—–– 大阪のときと今とでは、暮らしが変わりましたか?

哲也:大阪のときは車通りも多くて、子どもだけで外で遊ばせるのは心配でした。今は子どもたちの年齢が上がっているのもありますが、ここらへんで遊んでいても平気です。

真理:以前みたいに「静かにしなさい」とか「車に気をつけなさい」といった注意ばかりしなくていいのは楽になったかな。あと男の子たちは虫が大好きだから、こっちへ来ていろんな虫に出会えるのが楽しいみたいです。その代わり、ムカデとかカメムシとか望まない虫も出てくるけど(笑)。

哲也:湖西に来て良かったと思うことのほうが多いですね。自然が豊かな反面、雪や強風など自然の厳しさもありますが、それも僕らにとっては新鮮で楽しい。休日に「どっか行こうか」と遠出しなくても、近くの公園に行くだけで子どもは自然に触れられるし、大人もリラックスできる。琵琶湖も山も近くにあるから、ここでゆっくり過ごそうってなるんですよ。

△近江おごとハーブガーデンより写真提供

真理:暮らしと仕事と遊びがゆるやかにつながっている感じがいいよね。スーパーが2駅先にしかないっていうのも移住前はどうなのかなって思っていたんですけど、心配していたほど不便ではないですね。むしろ子どもたちにとってはお店が少ないほうがいい環境だなと思います。

—–– じゃあ移住して大変だったことはあまりない?

真理:あえて言うなら湿気が多くて冬も雪が降るので、洗濯物が乾きにくいっていうくらいかな。だからこっちに来てから乾燥機をつけました。

—–– これからこんな暮らしがしたいっていうのはありますか?

哲也:せっかくこっちに移住したので、いろんな遊びにチャレンジしたいですね。ロードバイクやカヤックはトレーニングにもなるので楽しんでいます。あと登山もやってみたい。将来的には小さくても自分のヨットを持って、家族と一緒に乗れたらいいなというのが夢なんです。乗ってくれるか分かりませんが(笑)

—–– 琵琶湖でのヨットレースは?

哲也:琵琶湖でもヨットレースは開催されていますが、実はまだ一度しか出たことがありません。レース以外でも、目の前の琵琶湖でヨットに乗る機会は増やしていきたいですね。いずれ機会があればセーラーとしての経験を伝えたり、子供達に教えたりといった活動もしてみたいと思っています。

△琵琶湖でのセーリング風景。哲也さんより提供。

—–– 真理さんはいかがですか?

真理:私の夢は、人と植物が共生し合い、豊かに循環していくオーガニックタウンをつくること。このまちで育てる農作物には誰も農薬を使わない、まちのカフェでも有機栽培の野菜などが食べられる、そんなオーガニックタウンにしたいと思っています。すでに「近江おごとハーブガーデン」では無農薬でハーブや野菜、米や大豆を栽培しているんですよ。

△近江おごとハーブガーデンより写真提供

—–– この地域には「ねっこ自然農園」の加藤さん、「ひら自然菜園」の加地さん、米農家の森さんなど、できるだけ農薬を使わずに農業されている方たちがいらっしゃいますよね。

真理:そうなんです。だから湖西全体がオーガニックタウンになったらいいなと。まずは自分たちの圃場を有機JASに認証されるよう、畑の作業を変えていったり申請手続きをしたりしているところです。そして将来的には新規就農の希望者にも「湖西で有機農業をしたい」と思ってもらえるような仕組みづくりやまちづくりができたらいいですね。

有機農業が広がることで、考え方や選ぶものも、結果的に人とのつながりもより有機的(多くの部分が集まり強く結びついて一つの全体を形づくる)になっていくんじゃないかなと思っています。

山本真理さんが室長を務める「近江おごとハーブガーデン」

WEB: http://ogotoherbgarden.com/
☎ 077-572-8880
〒520-0101 滋賀県大津市雄琴2丁目18−1
■開園時間 4月~11月 10:00-16:00
■休園日/12月〜3月 冬季休園
■入園について/完全予約制 [10時~16時] ※最終予約受付15時  ■駐車場/30台

山本真理さんの著書 『あした、ハーブを植えよう—植物のチカラで家族を守る—』

『あした、ハーブを植えよう—植物のチカラで家族を守る—』
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  • 文 :
  • 和泉華織
  • 写真 : 山崎純敬
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