パンづくりのその先へ 。心もからだも、地域も元気に!

  • Coup Franc
  • 高木芳美さん

和邇駅から山手に向かい、てくてく歩いて15分ほど。閑静な住宅地にある自宅で、毎週水曜日に手づくりパンを焼いて、販売しているのが「Coup Franc(クウフラン)」高木芳美さん。以前、八屋戸のログハウスでベーカリーカフェを開いていたと聞けば、「あの素敵なお店!今もあの味を楽しめるなんて」と、喜ばれる方も多いかもしれません。

素材を吟味し、丁寧に焼き上げるパンはもっちりとしていて、しみじみおいしい。ログハウスの頃と変わらぬやさしい味わいです。そして、高木さんの活動は今、食の安全や環境にやさしい農業、地域活性化にまで広がっています。彼女のこれまでの活動と、これからの夢をお聞きしてきました。

子ども向けのパン教室がきっかけで、この道へ

ー 旧志賀町との出会いを教えていただけますか?

私自身は福井県出身です。結婚後、家族4人で大阪・高槻に住んでいたのですが、「もっと自然が多いところで、子育てをしたいね」と夫婦で話し合い、こちらに移住してきました。もう30年前のことになります。もう少し北に行きたい思いもありましたが、大阪に通勤する夫の負担を考えると、和邇がぴったりだと思ったのです(*注:JRで大阪ー和邇は約65分)。

ー なぜ、パンづくりを始めたのですか?

長女が幼い頃に小児ぜんそくを患っていまして。薬に頼るだけでなく、食習慣の改善や自然療法を通して「体に負担の少ない治療をしてあげたい」と思ったのがきっかけでした。それで、無添加や無農薬の食材を手に入れ、パンやおやつも手づくりしていたんです。そのうちに、ご近所の方に頼まれ、地元の子ども向けにパンやお菓子づくり教室を開くようになりました。

ー 両親ではなく、子どもが習う発想がいいですね。今でいう「食育」ですよね。

当時も今も、「できるだけ、体にいい食材を使う」のが私のスタンス。言い換えれば、ヴィーガンやオーガニックに限定しているわけではないんです。子どもは自宅以外で食にふれる機会も多いですし、ジャンクフードを食べるワクワク感だってあるでしょう? 無理をさせて、食が嫌いになってしまったら本末転倒です。そんな私の姿勢に、親御さんから共感いただいたようでした。

ー そこからグングン腕を磨いて、お店を開かれたんですね。

子どもが大きくなり手が離れた頃に、「Coup Franc(クウ フラン)」というベーカリーを開きました。堅田や比良、八屋戸などで長く営んでいたのですが、現在は形を変え、自宅の工房で焼いて販売しています。

ー お店の名前はどんな意味なのですか?

フランス語で「フリーキック」の意味です。当時店を手伝ってくれていた、サッカー好きの長男が名付けてくれました。「自由な発想でチャンスをねらう」という意味を込めてくれたんです。

— 素敵なお名前! 高木さんのスタイルにとても合っていますね。

大地を味わう ——自然農法の野菜づくりに挑戦!

— 普段は、どんなパンを作っているのですか?

「食べておいしい、ほっとできる味」が私のモットーです。北海道産の小麦をはじめ、丁寧に厳選した素材で手づくりしています。あんやクリームも自家製、野菜も自分で育てています。定番は、天然酵 母のカンパーニュやピタパン、それからフランスパン生地で作る食パン。牛乳やバターを使わないので皮はパリッ、中はふんわりとして、おいしいですよ。この生地でチーズパン、あんパンも焼いています。

△ 高木さんが店を開けるのは、毎週水曜日。焼きあがる横から、飛ぶように売れていく!

ー どれもおいしくて、ほっぺたが落ちそうです……! 家庭菜園もされているのですか?

小さなものですが、知人と3人で八屋戸に畑を借りています。パンを通して食の安全を考えるうちに、どんどん農業に興味がわいてきて、自然農法を取り入れました。「環境を守るため、何も持ち込まない、何も持ち出さない」のが基本ルール。土は耕さず、雑草は抜かず、作物の成長に合わせて刈るだけ水も肥料もなるべくあげません。

— え!? ほったらかしでいいんですか? どんな野菜も育つのでしょうか。

畝の作り方に少しコツはいりますが、畑と相性がいい作物しか育ちませんね。うちの畑ではお芋とお豆はよく育ちます。特に里芋や菊芋は甘くてホクホク! 大根や小松菜は小ぶりですけれど、甘くてみずみずしい。きっとこれが、八屋戸の”大地の味”なのではないかしら? とにかく滋味深いんです。

ー ワインでいうならテロワール! 興味深いです。

うちの畑は、眺めもいいんです。湖西の中でも特に山と湖が近くて、振り向けば山が迫り、目の前には雄大な琵琶湖が。来るたびに心癒されて、近くに住んでよかったなあ!と、しみじみ感動しています。

ー 雑草や野草ものびのび育っていて、のどかですよね。

ここでは、希少な在来種の日本たんぽぽがよく育ちます。根っこを乾かしてコーヒーにするとおいしいんですよ。しかもカフェインレスで。オオバコやスギナも、伸び放題……(笑)。野草は栄養価が高いものも多いので、この春は健康づくりに活用していきたいですね。

食のチカラで、多様な人々をつないでいきたい

— 今、夢中になっていることはありますか?

琵琶湖のほとりにある「蓬莱の家共同作業所」で、週2回パン作りの講師をしています。この仕事がとても楽しくて、幸せですね。蓬莱の家は、精神に障がいがある方の就労支援施設。つまり、職業訓練を行なっている場所です。最近はシェアファームや第1日曜日にマルシェ(蓬莱マルシェ)も行なっていて、地域に開かれた”コミュニティハブ”としても注目されているんですよ。

ー 楽しいと感じられるのは、「教える/教わる」だけではない、豊かな関係性が生まれているからなのでしょうね。

そうですね。施設の最終目的は、もちろん利用者さんの就労や自立にあります。でも、その過程に結果では測れない”小さな変化”がたくさん起きているんです。新しい技を身につける喜びを知ったり、生地をこねることが癒しになったり……。そうした心の変化の現場に立ち会うことで、私自身が元気をもらっていますね。一人で黙々とパンをつくっていると、つい深く考え過ぎてしまい、孤独な修行に感じることも……(笑)。でも、彼らと一緒につくると本当に楽しい。楽しい雰囲気だと、不思議とおいしいパンが焼き上がるんですよね。

ー 利用者さんと作ったパンは、どこで買えますか?

道の駅の「妹子の里」と「びわ湖大橋米プラザ」、毎月第1日曜日の「蓬莱マルシェ」で販売しています。

ー 今、あらためて多様性が尊重され、いろんな立場の人が生きやすい街づくりが全国で始まっています。その先駆けになるといいですね。

ささやかな一歩ですけれど……。湖西の素晴らしい自然の力も、きっと役立ちそうですよね!

— 旧志賀町のこれからについて、期待していることはありますか?

若い世代の皆さんが、マルシェやメディアを立ち上げたことが何より嬉しいですね。実は、私の上の世代にも、形は違えど、地域を盛り上げる活動をされている方がたくさんいます。だから、世代を越えた”縦のつながり”が生まれるといいですよね。2つの世代が手を組めば、80歳のおじいちゃんも、0歳の赤ちゃんもつながることができる。地域に根付く知恵や文化を、もっと分かち合うことができるはず。そのための橋渡しもしていきたいですね。

Coup Franc

住所: 滋賀県大津市和邇高城192‐354
電話: 090-2388-9228
*パンの販売は、毎週水曜11:00~17:00。駐車場は店頭でお尋ねください。