自然のサイクルに寄り添い、楽しみつくす。

  • YOSHIDAKE

湖や太陽、街の人々をモチーフに描かれている「Re edit」のロゴマーク。まるで絵本から飛び出してきたような愛らしいデザインを手がけているのが、グラフィックデザイナー吉田亮太さん、イラストレーターよしだよしえいさんご夫妻です。

お二人が暮らすのは、琵琶湖のほとり。白いペンキ塗りの門扉の先、緑いっぱいの庭が広がる一軒家。目の前は、青く澄んだ琵琶湖のビーチ。夏は子どもたちとじゃぶじゃぶ泳ぎ、冬は湖を眺めながらテラスでのんびり日向ぼっこ……。

移ろう自然のリズムに委ね、マイペースでゆるやかに。人の手の温もりが伝わるような、素敵なデザインが生まれる秘密は、どうやらここでの暮らしにありそうです。

子どもたちも大喜び。自宅の前をプライベートビーチに。

ーお二人のお仕事について教えてください。

亮太:僕がグラフィックデザイナー(大阪・吹田市出身)で、妻がイラストレーター(甲賀市出身)です。お互い会社勤務をしていたのですが、2013年に独立して2人でデザイン事務所(YOSHIDAKE)を開きました。それぞれが独立した仕事をすることもありますし、ブランディングやロゴデザインの仕事では共同で担当することが多いですね。

ー湖西にはどれくらい住んでいらっしゃるのですか?

亮太:今年で8年目になります。それ以前は京都に住んでいましたが、独立と長男の誕生を機に、新しい環境を求めて越してきました。友人と集まっているときに「どこかに広い家がないかなあ?」と何気なく聞いたら、ひとりの友人が「母の別荘を貸せるかもしれない」と言ってくれて。それが旧志賀町だったんです。1週間後には内覧に来て、2週間後には「借ります」と返事をしていました。

実は、僕の両親は定年後に北比良に移住していまして。偶然にもお互いの家が近くなり、びっくりしましたね(笑)。

ーこの家を選んだ決め手は何だったのでしょうか。

よしえい:湖畔沿いの家、という絶好のロケーションですね。家の目の前が浜辺で、敷地も広くて、のびのびと暮らせそうだと直感しました。琵琶湖の水が澄んでいて、泳げることにも驚きましたね。内陸で生まれ育ったので、県民とは言え、琵琶湖を身近に感じたことがなかったので……。

亮太: 大家さんに「自由に改装していい」と言っていただいたのも大きかったですね。コンクリート造なので、木造に比べてできることは限られていたけれど……。そうそう、昨年、自宅前の「浜辺の管理権」を正式に取得したんですよ。

ー 浜辺の管理権……! 初耳です。

亮太:この地域特有のようで、役所に届け出ると”家の間口と同じ幅”だけ浜辺を管理できるようになるんです。占有権ではないので、建物は建てられませんが、自由に草を刈るなどして、プライベートビーチ感覚で使えるようになります。本格的な手入れは今からですが、夏が楽しみですね。

△吉田家が管理する浜辺。水も澄んでいて穏やかだが、台風の後は浜辺の地形が変わることもあるそう。「自然と共に暮らしているのだと感じますね」(亮太さん)。

△アドベンチャー感、満載! 亮太さんがサポートし、2人の息子さんと彼らの友達が一緒に作った筏。実際に湖に浮かべて遊んだそう。

大きなウッドデッキは、家族のもうひとつのリビング

△リビングからひと続きでつながるテラス。床やテーブル、ベンチもすべて亮太さんの自作。西海岸を思わせるラフな風合いがカッコいい。

ー ウッドデッキのテラスがとても広いですね。10畳以上はありそうです。

亮太:4年ほど前に、自分で造りました。リビングルームから続く部屋の延長になるといいなあと思って。「やるからには、思い切り大きくしたい!」と意気込みましたが、最初は「大きすぎる」と妻から猛反対されました……(笑)。

よしえい:材料費の試算が、思いのほか高くて……(笑)。もちろん、今はとても気に入っています。天気のいい日は外でご飯を食べたり、お茶を飲んだり。息子たちもリビングと同じ感覚で、遊び回っていますね。大きなテーブルを置いたので、お客さんをたくさん呼べるのもうれしい。たまにですが、大きな絵を描くときにも使っています。

ー大きいので、琵琶湖に直接つながっているような感覚にもなります。3匹の猫ちゃんたちも、日向ぼっこができて気持ちよさそう……。

ーよしえい:たしかに、彼らが一番くつろいでいるかも(笑)。夏は日差しが強いので、日よけのタープを張っています。秋になると「比良おろし」が吹くので、いそいそと片付けなければなりませんが……。

△京都時代から一緒に暮らしている「そらちゃん」。ほかに「あーちゃん」「うーちゃん」のきょうだい猫がいる。

ー この地域に吹く局地風ですね。JR湖西線がよく止まるのも、この風のせいだと聞きます。そんなにすごい風なのですか?

亮太:強烈ですね。若狭方面からの風が、比良山地の南東を駆け降りるように吹き下ろすのです。秋から冬にかけて不定期で吹くのですが、初秋と3月が特に多くて。台風が毎日やってくる感覚に近いです。

よしえい:引っ越してきた頃、近隣の方に「あの風を体験しないと、本当にここが好きになれるか分からないよ」と言われたものでした。体感して「なるほど……」と。

ー 厳しい自然と直面しても、この土地を愛せるか——。覚悟が試されますね。

亮太:付き合い方が分かるまでは、大変でしたね。椅子から洗濯ものまで、庭に置いたものがことごとく飛ばされるです。「もう大丈夫かな」と思って戻すと、また飛ばされる……(笑)。この地域の家は、なぜ家の山側に窓が少ないのか、この家がなぜコンクリート造なのか、という理由が身にしみてわかりました。

ー その分、無事に春を迎える喜びはひとしおでしょうね。

よしえい:そうなんです! 春はぐっと温暖になり、近くの山や森が青々とした新緑でいっぱいに。庭に小鳥もたくさんやってきて、愛らしい囀りに癒されます。

亮太:春が来るたび、「一生ここに住みたいなあ」と思いますね。ちなみに、この辺りは蓬莱山のふもとで、比良山系の南端にあたります。大阪方面から車で帰ってくると、和邇に差し掛かったあたりで、比良山系がはじまるところが見えるんです。これが見えると、ほっとした気分になりますね。

△室内のインテリアは、ヴィンテージラグやランプ、よしえいさんや子どもたちが描いた絵をミックスして、ナチュラルでリラックス感あふれる雰囲気に。浜で拾った流木もオブジェにしているそう!冬の家時間も、きっと楽しい。

生活の軸ができたことで、「自分らしい生き方」が見えてきた

ー 1日の中で好きな時間帯はありますか?

よしえい: 夕暮れや日没前、直後の時間が大好きです。空と湖がオレンジ色にとけ合う日もあれば、茜色から薄紫、紺色の美しいグラデーションを描く日も。青一色の世界になることもあり、美しさで胸がいっぱいになります。

夫は、移住以前に構えた京都の事務所に通っていますが、私はこの自宅がアトリエ。1日中家にいることも多いですが、毎日違う景色に出会えるので飽きませんね。

— 子育て、生活のしやすさの面で、この地域はいかがでしょう。

よしえい:子どもがもう少し大きくなり、親の目が届かないところで遊び始めると、心配が増えてくるかもしれません。この辺りは夜道が暗く、昼間でも死角になる場所が多いので……。安心して子どもを見守ることができるしくみがあるといいですよね。

亮太:生活面で不便さを感じたことはないですね。京都まで電車で約30分、隣駅にはスーパーもあり、道の駅では安くて新鮮な野菜を買える。「田舎暮らしをしたいけど、不便すぎても困る」という 人たちにぴったりだと思う。

ー この地域に暮らしたことで、ご自身に変化はありましたか?

亮太:早寝早起きになりました。それに、湖西は京都以上に四季がはっきりしているので、冬の雪や風対策も含めて、1年の生活サイクルができてきた気がします。

自然のリズムに沿って暮らしていたら、自分らしい「生き方の軸」もできたように思います。以前は、その瞬間の仕事や生活に忙殺されていたけれど、今は落ち着いて「10年後の自分たちが、どうありたいか?」を考えられるようになった。「今やるべきこと」「やらなくていいこと」が見えると、無理や無駄がなくなっていく。仕事の質や効率もぐんと上がったように思います。

よしえい:私も、今が一番、自分らしいペースで幸せに生きられている気がします。イラストの仕事は生涯続けていきたいけれど、自分が心から描きたいと思うもの、作品づくりの時間も大切にしていけたらいいな。

理想の生き方が見えてきたら、”住まい”についての考えも変わってきました。子どもたちが大きくなったら、理想の”終の住処”を造ってみたいですね。

△「RE edit」のウェブデザイン、ロゴマークも担当しているYOSHIDAKE。「湖から昇る朝日、比良の風、そして地元を愛する人たち。この地域の魅力を図案化しました。”新しい物語”が生まれるようにと願い、童話的なエッセンスも加えています」(亮太さん・よしえいさん)。