新しい日常も、すこやかに。30代夫婦が移住で叶えた”等身大の暮らし”とは?

  • 岡山さん一家の場合

「新しい日常」がはじまった2020年以降、暮らし方も、働き方も大きく変わってきています。緑いっぱいの土地で、子育てはもちろん、大人の私たちものびのびと暮らしたい。マイホームは欲しい けれど、子どもの成長や、先の読めない経済状況を考えると、「変化」の余地のある選択をしたい……。

新米のパパさん・ママさんの誰もが抱えているであろう悩みを、”湖西の中古住宅に暮らす”という選択でクリアーし、理想の暮らしを叶えた若い家族がいます。

建築家の夫・泰士さん、フォトグラファーの妻・加菜さんと、遊び盛りの娘ちゃんたちが紡ぐ、幸せいっぱいの日々。笑顔がたえない岡山家の日常をのぞかせていただきました。

旧別荘地×中古住宅の選択が、可能性を広げてくれた

—— お二人は京都からの移住でいらっしゃいますよね。

泰士:はい。僕は京都生まれで、妻は沖縄生まれです。結婚後は西陣の京町家に住んでいたのですが、長女の誕生を機に中古物件を購入し、蓬莱山のふもとの別荘地へ越してきました。2017年の秋、僕と妻が30歳のときのことです。以前から二人で湖西に遊びに来ることが多く、旧志賀町エリアののんびりとした空気、時間の流れが気に入っていたんです。

加菜:海を身近に感じて育った私は、この地域が琵琶湖の浜辺に近いことも魅力に感じました。結婚前は転勤が多い仕事をしていたので、じっくり腰を据えて暮らせる場所への憧れもありましたね。

—— こちらは高台の旧別荘地ですが、交通の便はいかがでしょうか。

泰士:最寄り駅の志賀駅までは、徒歩15分ほど。僕は、京都市内で建築事務所を経営しているので、毎日50分かけて車で通勤しています。便利とは言い切れませんし、旧別荘地は未舗装の道路が多い側面もあります。そのため、当初は京都に近い「比叡平」で家探しをしていたこともありました。でも、通勤時間を妥協したことで得たメリットははるかに大きくて。今の暮らしに、とても満足しています。

加菜:私は自宅をスタジオにして、ニューボーンフォト (新生児の記念撮影)のフォトグラファーとして活動しています。出張撮影も多いですが、車移動が基本。アクセスの不便さをあまり感じたことがあ りません。

△ 妻・加菜さんが撮影を手がけた「ニューボーンフォト」より。欧米で人気の撮影法で、生まれたての赤ちゃんそのまま の姿を記録する。加菜さんは、長女・小夏ちゃんを自身で撮影したことをきっかけに、国内外のニューボーンフォトグ ラファーワークショップを受講し独立。スタイリングも自ら手がける。

—— 泰士さんがおっしゃるメリットは、どんなものがありましたか。

泰士:何と言っても予算と、環境面ですね。この建物は建築家が設計した別荘で、ビューやデザインも良く、造りもしっかりしています。その家を約500万円で購入し、約500万円でリノベーションしました。価格を抑えることができたのは、家の状態が良く、改修がキッチンや外壁などの最低限で済んだことと、このエリアが新築や増改築の制限を受ける「市街化調整区域」であるため、価格がつきにくいことにあったと思います。僕らは住宅ローンの借り入れを、35年返済で組みました。つまり、月々の支払い額は3万円程度の安価です。今は金利が安いですし、自営業なので可能な限り手元にキャッシュをおいておきたい、という考えもあって。「無理をしない」という選択をしました。

—— 具体的に教えていただき、若い世代の家族の参考になると思います。

泰士:「建築家なのに新築しないのか?」と聞かれることも多いのですが、僕なりの考えがあって。近年は、”家”に関する考え、価値観が大きく変わってきていると思うんです。エコやサステナブルの視点、アフターコロナ後の経済状況、生活様式の変化もあり、「新築し、終の住処にする」という視点 だけでは語りきれない状況になっている。理想の住まいを作ったはずなのに、リモートワークが定着したら「間取りが合わなくなった」という方も、きっと多いことと思います。

だから、「ライフスタイルの変化に合わせ、積極的に家を直していく」とか、「新築はせず、古い家を住み継ぐ」という発想、「最初から売ることも視野に入れて、新築する」という発想が、もっとあってもいいと思うんですね。僕らはこの家を通して、いろんな変化に対応できる”住み方”や”直し方”の実験をしたいと思っているんです。建築家としてそこから得たラーニングを、新築やリノベーションに活かせていければいいなと。

加菜:新居の費用を抑えたことで、いろんな可能性が広がったように思いますね。将来的に、もっと田舎の地域にもう一つ拠点を持っても面白い。リモートワークが定着した今、暮らし方はより自由になっていると感じますね。

△ 右が長女の小夏(こなつ)ちゃん、左が次女 弥(あまね)ちゃん。好奇心旺盛な仲良し姉妹。

「新しい日常」でも変わらない、すこやかな暮らしのかたち

△ 琵琶湖に面した公園にて。この日は、おじいさん&おばあさんごっこをしていた2人(笑)。この後すぐに、元気に駆け回り出した。

—— 湖西での暮らしについてお聞かせください。買いもの、子育て事情などはいかがでしょう。

泰士:スーパーは主に、和邇駅前の平和堂へ行っています。車で15分ほどの大きいスーパーなので、便利ですね。娘たちの保育園は僕の通勤ルートにあるので、僕が毎朝送り届けています。

加菜:家のすぐ目の前に林があり、娘たちの遊び場になっています。野いちごや冬いちごも実るので、季節になると子どもたちとカゴいっぱい摘んで、一緒にケーキを作るんです。とても喜んでくれますね! クリスマスリースの材料にも困りません。ヒノキの葉っぱ、サンキライの真っ赤な実を摘んで手作りしていますよ。少し足を伸ばせば、春にはワラビやタラノメなどの山菜採りもできます。

泰士:琵琶湖で漁師をしている友人から、魚を分けてもらうこともあります。おかげさまで、豊かな食生活を楽しませてもらっていますね!

—— ご近所づきあいはいかがでしょうか?

加菜:ご近所の皆さんには、とても良くしていただいています。今、3人目の子がお腹にいるのですが、一時期、体調を崩してしまったことがあって。ご近所の方々がおかずを持ち寄ってくださり、本当に助かりました。家に呼んでいただき、おみそ作りも教わったこともありますよ。

泰士:広い範囲で言うと、移住者が多い地域なので古いしきたりが少なく、フラットな関係を築ける良さがあると思います。それから、同世代の移住者とは気が合いやすいですね。

—— お二人が感じる、旧志賀町の一番の魅力は何でしょう。

泰士:やはり、湖の景色の美しさですね! ここは高台なので、水平線から朝日がぐんぐん昇ってくる様子が見えるんです。湖面や空全体が淡いオレンジやピンク色に染まって、金色の光がリビングいっぱいに差し込んでくる……。毎日感動して1日を始められることが、本当に幸せだなあと思います。

△ 岡山邸のリビングから続くウッドデッキから、雄大な琵琶湖の景色が見渡せる。

加菜:自宅で仕事をしているときでも、常に琵琶湖の大自然に包まれている感じがします。湖の目の前にある公園は、娘たちのお気に入り。この界隈は人口も少なく、密になる場所もないので、コロナ禍の間も娘たちを自由に外で遊ばせることができました。

△ 撮影の予約が入ると、加菜さんはリビングにセットを組んでスタジオにしている。「広さの都合もあります が、ここが一番きれいな光が入るんです。お客さまに、ご自宅と同じようにリラックスいただける良さもありますね」

サステナブルな「小さな経済」を地元に根づかせたい

ー 泰士さんは「RE edit」の運営母体で、旧志賀町の活性化に取り組んでいる地域団体「シガーシガ」の発起人ですよね。どんな思いで、この活動を立ち上げたのでしょうか。

泰士: 僕は湖西が好きで移住してきたものの、職場が京都にあるため、なかなか地元にコミットメントする機会が少なく、ずっとさみしく思っていたんです。周囲には空き家のまま放置された別荘が多く、空洞化が進んでいることも心配で。建築とコミュニティデザインは切り離せないので、地域のこともライフワークとして考えていきたいと思ったのです。

—— 「シガーシガ」という名前の意味を教えてください。

泰士:ギリシャ語で「ゆっくり、ゆっくり」という意味があります。「湖西らしい時間の流れにぴったりだよね」と、メンバーたちと話し合って決めました。現在は、コミュニティファーム(HOURAIシェアファーム)、マルシェ(HOURAIマルシェ)の企画運営、地域メディアの立ち上げなどを通して、地域の人々が心地よく関われる「場」づくりを行っています。一方で、コロナ禍で注目された「ワーケーション」の滞在先としての可能性も模索しています。

理想形はプロジェクトを軌道に乗せた後、権利を地元の方に譲り、僕らがバックアップに回っていくこと。マルシェなら農家さん、ワーケーションなら湖畔の保養施設にという風に……。小さな経済がいくつも循環するしくみが根づけば、地域はもっと元気になると思いませんか?

—— 持続性を考えた、素敵なお取り組みですね。最後に、岡山さんご一家として、今後やってみたいことはありますか?

泰士&加菜:第3子の出産を助産師さんにお願いし、自宅で行う予定です。コロナ禍で家族が病院に来れないことも理由ですが、娘たちにこの土地で新しい命が生まれる瞬間を、一緒に体験させてあげたいと思っています。

それと、薪ストーブ導入する準備も進めたいですね。薪は割ってから使えるようになるまで、2年近く乾かす必要があるんです。まずは、薪割りの練習から……(笑)。「やり方がわからない」という人も周りに多いので、ワークショップを開くのもいいなと思っています。

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